ある夏の夜[読みきり]

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 ──さて、昨夜の体験話をしようか。  昨日は午後2時からバイトで、なかなか忙しかったけど、夕食時を過ぎたらわりと落ち着いたんだ。  日替わりディナー作ったりオムライスを作ったり、明日の仕込みをしてから厨房を掃除して、午後11時閉店時間を迎えた。  最後のお客さんを送り出して、戸締まりをして、店内をチェックしてひと息つく。時間を見ると、バイト終了時間の午前零時まで少しあったから、雑誌を読みながら時間つぶしをしていたんだ。 ピポピポーン  お客様が来店する時に、入り口のセンサーが反応して鳴る音だ。閉店してますよと言うつもりで入り口を見ると、誰もいなかった。 ……よくよく考えたら、戸締まりしたあとだから人が入って来る筈ないんだな……  センサー系の機能によくある試作動だなとひとり合点して、また雑誌を読みはじめたんだ。 ピポピポピポーン また鳴った。  すぐさま入り口を見たが、やはり誰もいない。さすがに警戒した。まさか、泥坊が来たのか。  雑誌を持ち直す。雑誌の角はそこそこ武器になる、怯ませるくらいはできるはずだ。慎重に入り口に向かう……、誰もいなかった……。  ひと息ついて時計を見ると、そろそろ帰る時間だったので、雑誌を本棚に戻し荷物を取りに行く。 ピポピポピポーン ピポピポピポーン ピポピポピポーン  ……3回連続で背中越しに鳴った。すぐに振り返るが、誰も居ない。さすがにゾクッとした。  深呼吸をする、落ち着け、よく考えろ、僕に霊感はあるか? ないだろう? たちの悪い知り合いの故人はいるか? 居ないだろう。だから大丈夫だ。  荷物を取り、戸締まりの最終チェックをして、件の入り口から鍵を開けて外に出る。そしてちゃんと鍵をかけて帰宅して今に至る。  ──原因は解明されていない。次の夜勤は2日後──御盆の夜である──。 ーー 了 ーー
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