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「父上、母上、相談があるのですが」
「どうした、ミール。そんなに真剣な顔をして」
「そうよ。いつもぽわ~んとしているのに」
そんなに俺はいつもぽわ~んとしていたのか。
あ、ミールは俺の名前ね。
「ごほん。あのですね、僕は奨学生として王都学園に入学したいと思います」
「あん?」
「え?」
「ミール、その意味が分かって言っているのか?」
「そうよ、ミール」
「分かってます。僕は平民になります」
「ミール、それは」
「エミール。俺が話す」
「はい」
「ミール、平民になるということは平民の養子になり貴族の身分を捨てることだぞ」
「はい。それしか僕が王都学園に入学する方法は無いと思います」
「確かにお前は四男だしな」
「はい」
「あとは母さんと話す。お前は部屋へ戻りなさい」
「分かりました」
俺は部屋へ戻った。
貴族の子供と言っても中級貴族の四男にもなると質素な部屋だ。
専属のメイドもいないし。
十中八九、俺は平民に養子に出されるはず。
いつもぽわ~んとしているような四男だ。
それに、上の兄姉4人は出来が良いときている。
下の弟はすごく利発でかわいいし。
母さんはそんな弟にべったりだ。
しかし、母さんはよく子供を6人も産んだよな。
まあ、こっちの世界での貴族だと6人くらい子供がいるのは普通だけど。
そして、俺は平民の養子になることが決まった。
この世界には金持ちの平民はいない。
金儲けできる事は貴族がやるから。
それに平民は税金も取られる。
金持ちではないが、生活には困らない仕事をしている平民の家の息子に俺はなった。
両親は貴族がやっている店で働いている。
平民としては地位が高い。
その家には俺と同い年の娘がいた。
「ミール様のほうが早く産まれているので、ミール様がお兄様です」
「よろしくお願いいたします、お兄様」
「いえ、ミールと呼び捨てでお願いします」
「しかし」
「呼び捨てにしないと、前の親に養子先で虐められていると言いますよ」
「……分かりました。ミール」
「はい」
妹になるレイルが泣き出した。
え? どうしたの?
ギャン泣きなんだけど。
よくよく聞くと、ずっと格好よくて優しい兄が欲しくて「お兄様」と言いたかったらしい。
夢が現実になってすごく嬉しかったのに、これじゃあ天国から地獄の気分だよ、らしい。
まあ、お兄様呼びもすぐに飽きるだろ。
妹のほうが恥ずかしくなるかもだし。
「じゃ、じゃあ、すごく恥ずかしいけどお兄様と呼んでいいよ」
「はい、お兄様」
レイルはピタッと泣き止んでニッコリした。
おいおい、嘘泣きだったのか?
でも、俺はそんなに格好よくないと思うのだが。義理の妹を虐めたりしない優しさはあるけど。
「お兄様、私も王都学園の奨学生を目指します」
「レイルも?」
「はい」
ムフンという顔をしている。
日本の高校生の頭脳を持つ俺なら何とかなると思うし、俺は覚醒したのか魔法が使えるようになったのだ。
この世界には魔法がある。
そんな俺ならともかく、平民のレイルは。
しかし、レイルは可愛い。
王子様の好きな女性と友達になってくれたりしたら、俺のミッション達成が楽になるかも。
何とかしてみるか。
「レイル、奨学生への道は遠く厳しい茨の道だぞ」
「心得てます、お兄様」
「僕についてこれるか?」
「はい。例えそれがどんなに険しい道だとしても、私はお兄様と共に歩みとうございます」
「分かった」
「ありがとうございます、お兄様」
レイル、本当に8歳なのか?
とても8歳の受け答えとは思えないが。
レイルも日本の高校生の転生者じゃあるまいな。
『しかし、今日は良い天気だな』
「え? それはどこかの国の言葉ですか?」
いきなり日本語で天気の話をしてみたが。
この反応は日本語を知らないか。
日本語を知っていたら思わず『え? 今日は雨です』とか日本語で返すはず。
レイルも俺が元日本人だとは知らないはずで、とっさにとぼけるとか無理だろうし。
だとすると、レイルの頭脳はかなり良いのかもしれない。
まあ、8歳の平民にして王都学園の奨学生を目指したいと言うくらいだしな。
これは鍛えがいがあるというものだ。
こっちの世界では学校は12歳から。それまでは親が読み書きを教える。
少なくとも俺は貴族の家で最低限の読み書きは習っていたから、俺もレイルに読み書きを教えた。
「お兄様の教え方、すごく上手です」
「そうかな?」
「はい。すっごく優しくて頭もよくて格好いいお兄様、私は大好きです」
「えっと、ありがとう」
いやー、素直で可愛い妹は良いもんですな。
日本での家族は……あれ? まったく思い出せない。
友達や学校のこととかも。
学んだ事は覚えているのに、家族とかは思い出せない。
「お兄様、どうかしましたか?」
「あ、いや。ちょっとだけ前の家族のことを」
「お可哀想、お兄様」
「え?」
レイルが抱きついてきた。
「8歳で家族に捨てられるなんて」
「いや、捨てられてはないよ」
「本当に?」
「うん。俺が平民の養子になるのをお願いしたんだし」
「そこまでして王都学園へ。お兄様の目的は何なのですか?」
「それは」
「それは?」
何て説明しよう。
「ほら、王都学園の奨学生は超エリートだから、卒業したら王族の側近になることが多いんだ」
「はい」
「俺は国王陛下の側近になって、この王国の国民が平和に暮らせるようにするのが夢なんだ」
「お兄様! 素敵すぎます!」
「そう?」
いや、適当に言っただけだけど。
「ならば、私はお兄様の影となり手足となります」
「いや、レイルも女王陛下の側近になるとか」
「いいえ、私は太陽より月が、白鳥より小鳥が好きな女なのです」
「なるほど」
いや、よく分からないかも。
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