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 田舎町で行われる秋祭りは、ちょうど秋の彼岸の時期だ。祭りに連れて行くという約束も果たせるからと、曾祖父から継いだ古い家に数日泊まることにした。一年前まで住んでいたからか、中も荒れていなくて安心した。 (それに、こちらのほうが出てきやすいだろうし)  春と秋の彼岸は、昔からあの世への扉が開くと言われている。もとは仏教行事だったお彼岸が、日本古来の先祖供養と一緒になったことで墓参りなどするようになったと聞いたこともある。 (成り立ちや意味合いなんて、わたしにとってはどうでもいいんだ)  ただ、その時期に彼岸が開き、此岸と繋がることが大事だった。  予想したとおり、秋祭りの夜にあの人がシロウの前に現れた。一年前の覚束ない気配とは違い、昔のような姿を取り戻したシロウに我慢ができなくなったのだろう。 (いや、わたしがそう仕向けた)  白い肌は健康的な色になり、はにかむような笑顔をよく見せるようになった。光りを失っていた青灰色の目にも輝きが戻った。残念ながら黒色だった髪は白銀のままだが、それも艶やかで不思議な魅力を放っている。そんな姿を見て、あの人が辛抱できるはずがない。  ゆらりと歩き出したシロウを、わたしは静かに追いかけた。覚束ない足取りでたどり着いたのは、やはり曾祖父から継いだあの家だった。玄関を開け、進んだ先は曾祖父の写真が飾られている仏間だ。写真の前に座り込んだシロウは、虚ろな眼差しで写真を見ながら浴衣の裾をめくり上げた。 (魅力的な姿ではあったが……)  他の人には淫らに自慰に耽っているように見えたことだろう。しかし、わたしの目には骨張った大人の男の透けた手が見えていた。  その手がシロウの頭を撫で、頬や首、胸を撫でた。途端にシロウの細い体がころんと畳に寝転がる。めくれ上がった裾の中に入り込んだ手が、浴衣の中で震える愛らしいものに触れるのが見えた。そうしてもう一つの手が奥まった場所を撫で始めたとき、わたしは初めて声を出した。 「そこまでですよ」  わたしの声に、骨張った二つの透けた手がピタリと動きを止めた。 「あなたでも、それ以上のことは許しません。いいえ、あなただからこそ許さない」  続けて「それなのに未練がましいというか何というか」と言えば、骨張った手がゆらりと形を失っていく。 「あぁ、こんなに濡らして」  大きく開いたままの足元へ行くと、シロウ自身がくぱりと開いている尻たぶの奥がよく見えた。撫でてくれる指を求めているのか、いやらしくひくついているのが見える。 「こんないやらしい格好をして、しょうのない子ですね」  侮蔑にも聞こえる言い方だが、シロウには欲情を促す言葉に聞こえるだろう。その証拠に、閉じようとした両足を自ら持ち上げてそこを開き必死にわたしを誘っていた。  シロウのそこは、もはや排泄のための器官ではなく性器そのものだ。わたしの想いを受け止めるための懐であり、此岸に留まるための道すじとなる場所。ここでわたしを受け入れ、そうして自らの体で欲望を感じ此岸に根を張る。 (何事も教え方次第、愛情の注ぎ方次第だ)  男女の区別など関係ない。自分の立場や世間体など気にするほどのことでもなかった。肉体や魂の在り方など、どうとでもねじ曲げることができる。それを曾祖父はやらずに手放した。それなのに、いまさらしゃしゃり出てこられても迷惑極まりない。  しかし、それも今夜ですべて終わる。そのためにこの時期、この場所を選んでシロウを連れて来た。 「那津(ナツ)、もっと、撫でて」 「えぇ、いいですよ」  グッと両足を押し上げ、シロウ自らが開いているそこへ顔を近づける。ふぅっと息を吐きかけると、期待しているのか入り口がかわいらしく蠢いた。 「あ、那津(ナツ)、それ、やだ」 「嫌ではないでしょう? その証拠に、ほら」  舌を伸ばし、濡れて光るそこをベロリと舐め上げる。途端に「ぁあ!」とかわいらしい声が上がった。 「これでは畳を汚してしまいかねませんから、わたしが舐めてあげますね」 「ひ、ぁ、あ!」  何をしても素直に悦ぶ体になったものだと口元がにやける。すべてはわたしが想いを込めて接してきたからだ。体も、それに心もじっくりと解きほぐしできた。それを横から掻っ攫おうなどと虫がよすぎる。 「シロウ、かわいいシロウ、わたしのシロウ」 「ぁ……、那津(ナツ)、もうだめ、早く……早く、」 「えぇ、わかっていますよ」 「おくに、僕のおく、那津(ナツ)の熱いの、早く、いれて、」  虚ろな眼差しに喉がごくりと鳴る。 「ねぇ那津(ナツ)、はやく、奥にたくさん、ちょうだい、」 「……っ、シロウ、」  爆発寸前のものを突き刺すようにねじ込んだ。そのまま熱い内側を掻きわけて奥深くまで入れる。  それだけでシロウは絶頂し、掠れた悲鳴を上げながら薄い白濁を胸のあたりまで飛ばした。わたしを受け入れた中もヒクヒクと痙攣し、早く射精しろと言わんばかりに絡みついてくる。  たまらず、下腹にグッと力を込めながら一度目を吐き出した。吐き出しながら、背後で気配が揺らめいているのを感じた。 (いまさら何だと言うのだ)  いまのシロウはわたしのものだ。それに、シロウもわたしを求めている。  様々な事情があったにせよ、こうした愛情を最初に注いだのはあなた自身であり、手放し救い出せなかったのはあなたの罪だ。愛情も罪も未練さえ、そのすべてをわたしに継がせたのもあなただ。 「あなたの出る幕は、もうありません。あなたの手が必要とされることも二度とありません」  わかっているだろうに、それでも未練があるのか気配がゆらゆらと揺れている。そうして、ゆらゆら揺れながら横へと移動するのを感じた。 (他の男に抱かれて気を飛ばしている姿でも見たいというのか)  なんという欲望、そして執着だろうか。怨念にも似た執着に背筋がぞくりとした。腹の奥がぞわりと粟立ち、苛立ちが血を沸騰させる。 「あなたに用はありません。……目障りだ、消えろ」  力を込めてそう言うと、揺れていた気配がバチンと音を立てて消滅した。乱暴に彼岸へと押し返してしまったが、もう二度と此岸へやって来ることはないだろう。 (まさか、自分の先祖を強制送還することになるとは)  鞍橋(くらはし)の祖母あたりなら「先祖を敬わないなど、なんて罰当たりな」とでも言い出しそうだ。しかし、わたしにとって曾祖父は先祖というよりも分身に近い。いや、呪いのようなこの体を生み出し、呪詛のようにシロウに縛りつけてきた(まが)つ神だ。 「これで、もしシロウを手にできなかったら……いや、どんなことをしても手に入れていたでしょうね」  曾祖父が夢に現れることなく、日記でしかシロウを知らなかったとしても、わたしはシロウを求めていただろう。恋だと気づくのはほんの少し遅くなったかもしれないが、結果は同じだったに違いない。  そう考えると、曾祖父はシロウへの想いを気づかせるきっかけになったともいえる。 (それでは、まるで(まが)つ神ではなくキューピッドだ) 「ふふ、ははは、それはまた、あまりにも似合わなさすぎますか」 「ん、んぅ、」  笑ったことで中を刺激してしまったからか、気を失っているはずのシロウがむずがるような声を出した。 「那津(ナツ)」  無意識にわたしを求める声に魂が歓喜する。 「ここにいますよ」 「……那津(ナツ)、だいすき……」 「わたしもシロウのことが大好きですよ」 「……嬉しい」  意識がなくてもはにかむ顔に、体の奥深くがぞくりとした。たったいま吐き出したばかりだというのに、シロウの中に入ったままのものがむくりと膨らんでいく。 「ぁ……」  ゆっくりと瞼が開き、青灰色の目がわたしを見た。 「那津(ナツ)……?」 「シロウもまだ足りないでしょう? 今夜もたっぷりと愛してあげますからね」  そう囁くと、細く白い体がヒクンと跳ねた。 「ぁ、どうしよ……、ジンジンして、中、ジンジン、……どうしよう、那津(ナツ)、ジンジンする」  細い足がヒクヒクと動いている。全身をカタカタ震わせながら頬を赤らめ、青灰色の目はいまにも泣き出しそうなほど潤んでいた。  熟しきった中がどうしようもなく感じている証拠だ。こうなるように丁寧にじっくりとかわいがってきた。わたしだけを求めるように願ってきた。そしていま、わたしの長年の想いがシロウを美しくも淫らに花開かせようとしている。 「シロウ、どこがジンジンしているんです?」 「……僕の、なか……、中が、ジンジンして、熱い……」 「すっかり女の子になった証拠ですね」 「……女の子に、なった……?」 「えぇ。シロウのここは、」 「ひゃぅっ」 「女の子のように、たっぷり濡れて、」 「んぁっ」 「ここだけで、気持ちよくなれるようになったんですよ」 「ひゃぁっ」  ひと言ずつ言い聞かせるようにしながら、入り口から奥までをたっぷりと撫でる。そのたびにかわいい声を上げながら体を震わせる姿に、どうしようもなく興奮し目眩がするほどの喜びを感じた。 (たとえ彼岸からあの女が復讐しようとしたところで、わたしの想いに勝てるはずもない)  あの女の怨念で閉ざされていた土蔵の扉も開けることができた。ちっぽけな復讐心などわたしの前ではただの空気に過ぎない。 「ぁ……、那津(ナツ)、もっと……」  此岸と彼岸の狭間でわたし(那津)を求めるシロウの何と愛しいことか。深く哀しい欲でしか存在できなかったシロウは、こうしてわたしの腕の中で生き生きと存在できるようになった。 「那津(ナツ)、もぅだめ……。おくに、ちょうだぃ」 「えぇ、喜んで」  とろりと蕩けた青灰色の目を見つめながら、ゆっくりと体の奥深くへと腰を進めた。  わたしの下腹あたりに濡れた感触がするということは、気がつかないうちにシロウが達してしまったのだろう。色も薄く粘度も低いシロウのそれは、いつもサラサラと肌を濡らしてすぐに乾いてしまう。 (こんなに薄くては、どのみち子を成すことはできなかっただろう)  ふと、歴代の丹宝(にほう)家の男たちもそうだったのかもしれないと思った。いまとなっては知りようもないが、一種の呪いなのか遺伝的な欠陥なのか、何かしらがあったに違いない。 (まぁ、わたしにもシロウにも関係ないことだ)  シロウは子を成す足枷をつけられることはなく、わたしが子を求めることもない。 「シロウ、愛しいシロウ、わたしだけのシロウ。これからもずっと、わたしのそばにいてください」  祈るように告げてから、かわいい唇にキスをした。それに「ん」と小さく答えたシロウが両足を腰に絡みつけてくる。それだけで、わたしはどうしようもなく涙があふれそうになった。
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