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「……介……おい、謙介!」
「わっ、びっくりした。急にデカい声出すなよ」
「何回も呼んだだろうが。ったく、俺らといる時にボーッとしてんなよ」
拗ねたように唇を尖らす千聖の横顔が窓から差し込む西日に照らされているのを見て、そういえば、放課後にいつメンで教室に残り駄弁っていたんだったと思い出す。
完全に意識が飛んでいた。どうやらまだ昨日の小説世界の余韻が残っていたらしい。
「それから怜も! 俺らといる時ぐらい小説読むのはやめろよな!」
さっきから一人で騒いでいるコイツ、千聖は俺の幼稚園からの幼馴染。馬鹿だけど顔だけは無駄に男前な、この仲良しグループ?のムードメーカーだ。
「はぁ? 僕が読書してるところに、お前らが勝手に集まってきたんだろ」
クールで読書好きな怜は群れることを好まない一匹狼系男子。だけどこう見えて根はすげぇ良い奴なんだってことは、唯一一緒に居る俺たちだけが知っている。
「そうだよ千聖。放課後の過ごし方は人それぞれ自由なんだから、俺らが口を出すことじゃないさ」
隆将は常に一歩引いて皆をニコニコ見守る兄貴みたいな存在。噂によると、彼が怒った顔を見た者は誰一人としていないとか。
「まぁまぁ。何でもいいけどそろそろ帰ろうぜ。途中でクレープ食ってこ」
そして俺。何の特徴も無い、平凡な男子高校生。
「お前が言うなし。ってか、謙介がたこ焼き以外のモノを食べたがるとか珍しいじゃん」
「あぁ、ちょうど昨日の夜食べたばっかでさ。たこ焼き」
そう、平凡な男子高校生。ただ一つ、小説の中の世界に行ける特殊能力「ダイブ」が使えることを除けば。
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