ダイブ〜君の世界からSOS〜

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 俺がこの能力に気付いたのは小6の時。当時から小説が大好きだった俺は、とあるファンタジー小説に大いに感情を揺さぶられたその日、読後の幸福感を味わうように目を閉じた。「こんな世界に行ってみたいなぁ」なんて、ぼんやりと考えながら。  それからわずか数秒後。目を開けた俺はなんと、本当にその小説世界に入り込んでいた。  最初は夢かなんかだと思った。でも、それにしては肌を通して伝わる世界の感触があまりにもリアル過ぎた。  氷でできた大地は本物の氷のように冷たいし、常夜の空を舞う火の鳥は見ているだけで目が乾く。  突然現実離れした世界に放り出された俺は、自分で行きたいと願ったのにも関わらずその場でわんわんと泣いていたっけ。  結局、小一時間経ったところでいつのまにか元の自分の部屋に戻っていた。後で知ったことだけど能力には制限時間があったんだ。  そしてその後小説世界に飛び込むかのようなこの能力を俺は自分で「ダイブ」と名付け、何回も行使するうち段々とそのルールを把握していった。  たとえば、ダイブできるのは一度読み切ったことのある小説だけであることとか(ただし作品自体が連載作品であり、かつ連載途中の場合、最新話まで読んでいればダイブできる)。  あとはこちらから小説世界のキャラに干渉することはできず、逆にキャラの方から俺に干渉してくることもないということ。  ただしストーリーと特に関係のないモノや人であれば、触れたり話したりできる。ちょうど昨夜のたこ焼き買い食いが良い例だ。  要するに、モブの一人となって作中世界を自由に堪能できると思えばいい。  他にも、これはあくまで予測だが、ダイブできる小説世界は俺が作品を読んで勝手に想像した二次的なものではなく、作者本人が想像した世界がそのまま反映されていると思われる。  なので作者の想像の練度が優れているほど世界の解像度は高く、逆に練り込みが甘いとあちこちにモヤのようなものがかかってよく見えなかったりする。
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