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そうであれば当然、より解像度の高い世界に行ってみたい!と読者としては思うわけで。いろいろと分析しながらダイブを繰り返したおかげか、最近、よく練られた良質な作品を見分ける力が付いてきた気がする。
実際昨日の小説なんて思った以上によく練られた世界だった。夜空に開く花火一つ一つの色や形はおろか、屋台で売っている物や内装に至るまで事細かにイメージされており、それはまるで本当に夏祭りに行ったかのような気分を味わえて……
「……介……おいっ! 謙介!」
「わっ。またかよ、びっくりしたな」
「またかよはこっちの台詞だ。お前今日ボーッとし過ぎだぞ」
千聖に指摘され、また意識が夏祭りの夜に飛んでいたのだと気付く。いけないいけない。ここは通学路だ。
でも一番いけないのは素晴らしすぎるあの小説だと思う。
「謙介がボーッとしてることって今日に限らず多いよな。実際のところ何考えてるの?」
「確かに、僕も少し気になるな」
隆将と怜に興味を示されてしまい、俺は曖昧に笑って誤魔化す。まさか正直に「小説世界への日帰り旅行」について考えてましたなんて言えないし。
「千聖は知らない? 幼馴染でしょ?」
だんまりに痺れを切らしたのか、怜は千聖の方に話を振った。
「さぁ? 中学生か、下手したら小学生からこんな感じだし、あんま気にしたことなかったわ」
「ふーん、そうなのか」
その通り、千聖にもダイブのことはまだ話していない。話したところで、ボーッとしている理由が頭の問題だったということになるだけだ。
「知らんけど、どうせエロいことでも考えてんでしょ。こう見えてすけべだからなぁ謙介」
「バッ……! おま、適当言うな!」
千聖は「けんすけべ!」とそこらへんの小学生でも言わなそうなことを叫び、駆け出した。
別に怒ってもないのに全速力で後を追う俺と、楽しそうに逃げる千聖。ケラケラ笑う怜と隆将。毎日のように繰り返される、くだらなく愛おしい日々。
この後千聖をとっ捕まえた俺は、結局クレープじゃなくたこ焼きを割り勘(千聖だけ10円多く出させた)して食べてから解散した。
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