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「そうだ、今日はこの世界へ行こう」
ダイブできるのは日に一度なのでいつもじっくりと行き先を選別するのだが、今日はすんなりと決まった。
勇者とその仲間たちが魔王に囚われた姫を救うため冒険する、あらすじだけ見ればよくあるファンタジー作品。
だが、風景や感情の表現一つ一つが磨き上げられたダイヤのように美しく、この世界は絶対に魅力的だと読者としての本能が叫んだのだ。
いつものように目を瞑り、念じ、ゆっくりと開ける。
瞬間、飛び込んできた景色に俺は愕然とした。
世界が傾いている。
一歩踏み出したらそのままマントルまで沈み込んでしまいそうなほど頼りない地面と、そこから生える、ほとんど倒れかけのような角度の家々。遠くにはガタガタの地平線も見え、何より空一面が燃え盛る炎の中みたいに赤暗い。
なんだこの不気味な世界は。とてもじゃないがあの美しい描写が表現していたものと同じには思えない。こんなの、俺が来たかった世界と違う。
初めてダイブしたあの日のように、俺は言いようのない恐怖で身体の芯から冷えていくのを感じた。
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