16人が本棚に入れています
本棚に追加
あたりを警戒しながら恐る恐る先へ進む。実は、ダイブすることは自分の意思でできるがそれを途中でやめる方法を知らないので、制限時間が来るまでこの得体の知れない世界から逃れようがないのだ。
もぬけの殻のボロ民家と枯木ばかりがどこまでも立ち並ぶ平原(おそらく魔王城の近くだろう)を当て所なく彷徨っていると、不意に、前方の民家から人影が現れた。
反射的に近くの岩陰に隠れようとするが、よく考えれば、魔物なども含めストーリーに関わる人物とはお互い干渉できないはずだったと思い出し、ホッと胸を撫で下ろす。
「お前、もしかして彼の友達じゃないか?」
だからその人影から呼びかけられた時は、悲鳴を上げそうなほどに驚いた。
「やっぱりそうだ! まだ彼の心の中で漂っていた頃、記憶の断片に映ったその顔を見たぞ!」
「あぁ、僕も見たことある。間違いないな」
「まさかこんなところで君に会えるなんて!」
人影は三つ。意味不明なことを口走りながら近づいてくる彼らから、俺は逃げることができなかった。
驚いた拍子に腰が抜けたのもあるが、理由はそれだけじゃない。
「彼?」
俺は勇気を出して尋ねてみる。
「俺たちの作者だよ」
真ん中の人物が言った。剣や盾を装備した彼の格好を小説の描写と照らし合わせたところ、たぶん主人公兼「勇者」のケイトという男であると判断できた。
最初のコメントを投稿しよう!