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「彼は物書きとして、もう何年も心に苦しみを抱え続けてるんだ。この滅茶苦茶な世界を見れば分かるだろ? これは彼の苦悩が、彼の想像力に直接影響を及ぼした結果だ。
このままじゃこの作品は完結まで辿り着けないかもしれない。そうなれば、俺たちは姫を救うことができなくなっちまう」
「だから頼む。君の手で彼の心を救って、どうかこの物語を完結させてくれないか?」
「彼を救えるのはきっと、彼の友人の中でもお前だけだろうからな」
両隣の二人も便乗するように言う。彼が勇者ケイトで間違いなければ、必然的にその仲間である「魔導士」サンディと「剣士」イラゴだと思われる。
「救うってどうやって? それに、彼って……」
「分からないか? 彼の名は、」
刹那、三人は突風に煽られた塵のように赤い世界と共に消えてしまう。気付けば俺はダイブする直前の姿勢のままベッドの上、仰向けで自室の天井を見上げていた。
タイミング悪く制限時間が来てしまったらしい。
掛け布団を頭まですっぽりと被り深呼吸するが、嫌な胸の動悸が治らない。
無事戻って来れた安心感はあれど、それ以上に、ケイトたちの悲愴な声が耳にべっとりとこびりつき、この日はよく眠れなかった。
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