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37 年寄りの忍者? 2023/12/20(水)
耳鼻科の診察が終わって、処方箋薬局で薬を得た。耳鼻科医院からバス停まで、二分くらいだ。
バス停は、10階建ての団地の間にできた、南北に走る新しい四車線道路にある。ここは団地の陰になって陽が射さず、団地の建物の間に道路があるため、いつも道路にそって風がある。おまけに道路が南北に走っているため、この時期は季節風が強い。バス停には屋根も風除けも無い。チョットくらいバスを待つ人の事を考えてバス停を作ればよいのに・・・。
そうこうするうちに、行き先が違うバスが停車して、背の低い腰の曲がった年輩の男の人が降りた。
すると、その男の人は、バス停がある歩道と、団地の駐車場を隔てる、1メートル以上の高さがあるネット状フェンスの向こうに、背負っていたデイパックを投げこんだ。デイパックはフェンスの向こう側の雑草の上に落ちた。
すると男の人はフェンスにしがみつき、ゆっくりと左足をフェンスのネットにかけた。
バスを待っているのは俺と、同世代の女の人だった。彼女は、男の人がバスを降りてフェンスの向こうにデイパックを投げこんだ時から驚異の眼差しで、フェンスにしがみついて左足を持ちあげる男の人を見ていた。そして、
「向こうに団地の入り口があるから、無理しなくても・・・」
と呟いていた。
すると男の人とはチョット笑い顔になって、やっとの思いでフェンスの上まで左足を持ちあげてフェンスをよじ登ると、フェンスの上に腹這いなって、左足をフェンスの向こう側に垂らした。
そして、今度はフェンスにしがみついて、ゆっくりフェンスを降り、左足からフェンスの向こうの雑草の上に降りて、デイパックを背負って、団地の駐車場から団地の建物の方へ歩いて行った。
フェンスを乗り越える男の人の動きは、あの動物のナマケモノがフェンスを越えるように見えた。
俺は、
「今時、おもしろい人が居ますね・・・」
と言って、その男の人が団地内の何処へ行くか確認した。
男の人は団地の中に入っていった。
「団地の中に入りましたよ・・・」
そう言うと、女の人はバス停がある位置から道路沿いに30メートルほど北にある団地の門を示した。
「フェンスを越えなくても、団地の門まで歩いた方が早かったですよね」
男の人がフェンスを乗り越えるのに、どれだけの時間がかかったか、この女の人の言葉でおわかりだろう。
あの男の人は所要時間ではなく、距離を選んだ・・・。時間感覚ではなく、距離感覚で物事を考えてるのかも知れない・・・。距離感覚で物事を考える年寄りの忍者・・・。
俺は妙な事を考えていた。
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