遼二とルナ

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「ああ――確かにそういう教えもせにゃならん時が来ようが。だが今はまだその時ではない。お前さんには政治経済のことや茶の湯など、教えにゃならんことが山ほどあるんだ。もう一、二年はとてもじゃないがデビューなどさせられんからな」  そう言ってやると、ルナはどこかホッとしたように表情をゆるめながらも、 「一、二年って……。そんなに先なら、俺がデビューする頃には年食っちまって売り物にならねえんじゃね?」  笑いつつもホウっと深く肩を落とす。遼二にはその様子がルナの安堵の感情に思えてならなかった。  この邸で暮らし始めてから三月(みつき)が過ぎようとしている今、ルナの中で感情というものが芽生えつつあるのは確かなようだ。やはりあの冰という子供や、それに家令の真田など、あたたかな人々の中での暮らしが少しずつ彼の気持ちを穏やかにしているのかも知れない。 「さあ、それじゃ休むとするか。床は一緒だが二人で大の字になっても余裕なくらいに広いベッドだ。心配せずに眠るといい」 「うん……分かった」  うなずいた瞬間、彼の陶器のごとく美しい肌がわずか朱に染まったように感じられたのは幻か――遼二とルナにとって新たな日々が幕を開けようとしていた。
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