531人が本棚に入れています
本棚に追加
「……そうか、あの時の抗争に巻き込まれて亡くなったのか」
だとするなら少なからずファミリーの自分にも責任はあろう。中学生とはいえ、あのような子供が深夜まで帰らない老人を心配してカジノに捜しに行くくらいだ。普段から一人で老人の帰りを待つ姿を想像すると、酷く胸の痛む思いがしていた。
「黄大人――ひとつ相談があるのだが」
そう話し掛けた焔に老人はえらく恐縮して身を縮めた。
「大人などと……そのような呼ばれ方は勿体のうございます……! どうか黄と呼び捨ててくださいまし」
当然のこと老人は焔よりも遥かに年上だが、この城内で皇帝と呼ばれている周ファミリーのトップであることを知っている。恐縮も仕方なかろう。焔はその意を汲むようにざっくばらんに言い直した。
「――ふむ、それなら坊主と同じ呼び方で構わんか? 爺さん――これでどうだ」
「恐縮にございます」
「では爺さん、あの坊主のことなんだが――」
「はい……」
「お前さんのディーラーとしての腕は噂で聞いている。我がカジノにおいて無くてはならない存在だということも承知だ。だが、毎晩帰りが遅いお前さんをあのような子供一人で待たせておくのは不憫に思える。しかも坊主が親を失ったのは我がファミリーの末端の者たちが起こした抗争が原因だ。そこでだな、坊主を私の手元で預からせて欲しいと思うのだが如何だろう」
老人はさすがに驚いたようだ。皺の深い瞳を見開いて硬直してしまった。
最初のコメントを投稿しよう!