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愛しき者の失踪
ところ変わって日本、川崎――。
香港では周焔が幼き雪吹冰と暮らし始めてひと月余りが経った頃のことである。
日本の裏社会で始末屋と異名をとる極道がこの川崎に大きな組を構えていた。名を鐘崎組という。
長は鐘崎僚一といい、五十代半ばの男であるが、とてもその年齢には見えないほどに若々しい。何より面構えが群を抜く男前であることから、何かにつけて話題が絶えないといった具合である。組員を数十人抱える邸の造りは広大で、表門には表札すら出ていないが、一目で素性が想像できるような構えである。世間からは言わずと知れた極道と認識されているものの、実のところは少々意味合いは違った。
極道といってもいわゆる広域指定暴力団ではなく、どこの組織にも属さない一匹狼的な存在といおうか、活動範囲も日本のみならずアジア各国に渡っていて、香港の周ファミリーとも古くから懇意の間柄にある。焔の父・周隼とは同年代であるゆえ、アジア圏内でも格別に信頼し合える仲といえた。
もちろん日本国内の筋者たちにも広く顔が効くが、それとは真逆の警察組織とも堅固な繋がりを持っていて、政府要人からも覚えがめでたい。僚一の仕事というのは、表向き司法などによって折り合いがつけられない難しい案件を秘密裏に処理するといった事案が主で、故に始末屋と呼ばれているのであった。
その彼には成人を迎えてほどない一人息子がいる。名を遼二といい、今では組の若頭として公私共に父を支えているといった頼もしい存在だ。母親は遼二を生んで間もない頃、他所に男を作って家を出て行ってしまった。裏の世界の――常に危険と隣り合わせの生活が重荷になったようだ。そんなわけで遼二は父の僚一と組員たちによる男手の中で育てられたのだった。
その鐘崎組では、組始まって以来という難問に局面していた。組若頭である鐘崎遼二の幼馴染・一之宮紫月が忽然と姿を消すという騒動が起こったからである。
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