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「だが、ツラは間違いなく一之宮だ。この世にあそこまで瓜二つの人間がいるとも思えんからな。お前の目で直に確かめてもらおうと呼んだわけだが――」
ただ、今現在紫月らしきその男がいる場所がこれまた問題だと焔は言った。何とそれはこの城内で遊郭街が立ち並ぶ区域だというのだ。
「遊郭だと――ッ!?」
冗談じゃない――と、遼二は蒼白顔だ。
「安心しろ。ヤツはとりあえず無事だ。遊郭を仕切る頭取に話を聞いたところ、何でもここ半月くらい前に異国の行商人が連れて来たそうでな。今は遊女や男娼の世話係として下働きをさせているということだったから、俺の権限でそれ以外のことは絶対にさせないようにと厳しく伝えてある。頭取もいずれは男娼として店に出すつもりでいるようだったが、その際も俺の許可なしで勝手なことをせんようにと言ってある」
紫月を発見したのは、たまたま家令の真田が生鮮市場で見掛けたのがきっかけだったそうだが、とりあえず取り返しのつかない事態になる前だったのが不幸中の幸いだったと焔は言った。
城内を治める皇帝といえど、この街に生きるすべての人間を一から十まで把握することは不可能だ。そんな中で、真田が見掛けたことは奇跡といえた。
「とにかくヤツに会ってみてくれ。案内する」
「ああ――頼む」
逸る気持ちを抑えながら、二人は遊郭区へと向かった。
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