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先程焔も言っていたが、これでは紫月当人かどうか迷ったとて仕方ないと思えた。
「紫月……か?」
遼二が訊くも、男は未だ無表情のままで眉ひとつ動かす気配すら見せない。黙っていると背筋に寒気が走るような美しい形の唇が、開口一番放った言葉にも驚かされてしまった。
「あんた、誰? 俺に用だってけども」
だが、その声はまさしく聞き慣れた紫月のものだった。しかも彼独特の言い回し――仮に別人だとしても、姿形はともかくここまでそっくりなイントネーションで話すとすれば、それはもうクローン人間くらいだろう。
彼は紫月に間違いない――遼二は本能でそう感じていた。
「用はいったい何だってのよ? そっちは――皇帝様だったべ? こないだ訪ねて来たから知ってっけども」
もう一人の男――つまり遼二のことであるが――とは初対面だねと言って薄く笑う。
「まあ、そんなトコに突っ立ってねえで掛けなよ。なんか飲む? 茶葉はジャスミンしかねえからそれでいい?」
椅子を勧めてくれて、どうやら茶も出してくれるようだ。笑顔が見られたことにはホッとするも、どちらかといったら親しみの感情とは程遠い冷笑という雰囲気だ。ただし――言葉の節々に感じられる言い回しはまさに紫月に相違ない。遼二も焔も無言のまま、彼が茶を淹れる仕草に釘付けとなっていた。
(どうだ――おめえの目から見てどう感じる。ヤツは一之宮だと思うか?)
視線は二人揃って紫月に向けたまま、小声で焔が訊く。
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