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「ふぅん、そう」
「ここよりは若干住み心地も良いはずだ。部屋も広くなる」
「そいつぁ有り難いね。けどまあ、別にここだって不自由とは思ってねえけどな」
どうも彼には自我というものが薄いのか、嬉しいとか悲しいとかいった喜怒哀楽の感情が見えにくい。住む場所が変わると言っても驚くわけでもなく、部屋が広くなると伝えようが嬉しがるわけでもない。いずれ男娼にさせられると分かっている現状を嘆く素振りも皆無だ。
まるで来るもの拒まず去るもの追わずの如く、流されるまま従うこと自体に違和感すらない持っていない。
いったいどういう育ち方をしたらこうなるのだろうと首をひねらされてしまうほどだった。
彼が紫月本人であるならば、何か余程のことが起こってこれまでの一切の記憶を失ってしまったとも考えられるが、実のところそう思いたいのは遼二と焔の都合の良い考えであって、実際はまったくの別人という可能性の方が高いのかも知れない。
遼二にとって、そして焔や真田ら周りの者たちにとっても奇妙といえる日々が幕を開けようとしていた。
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