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ルナと紫月
ルナと名乗った男との面会後、焔と遼二は一旦邸へと戻ることにした。帰り際、遊郭街を仕切る頭取の元に挨拶がてら、ルナに教育係をつけることになった旨を伝える。彼は容姿からして群を抜いているし、皇帝の邸で預かって一流の教育係に世話をさせたいとそう言ったのだ。
「わざわざ皇帝のお邸であの子を預かってくださるとおっしゃるのですか? そこまでお手を煩わせるのは恐縮です。遊女や男娼を教育するのも我々の仕事の内でございますし……」
頭取は前代未聞だと言って面食らっていたが、そこは何とでも言いようだ。
「だがな、頭取。あのルナという男は絶品だ。この街きっての男娼に育てるには何を置いてもまずは教育が必要ではあるまいか? 床技だけでなく、所作に茶の湯、品のある言葉使い、政治に世界情勢といった世情についての知識――覚えさせることは山とある。今しがた私が会った印象では、正直なところ言葉使いからしてなっちゃいない。顔だけ良くても中身が伴わなければ客はすぐに離れていくぞ」
それゆえ自分の手元で預かってみっちりと仕込んでやる心づもりなのだと焔は言った。それを聞いた頭取はたいそう感激したようで、そういうことなら是非にと快諾させることに成功、これでひとまずは堂々とルナを手元に置けるようになる。
「では後で使いの者をやる。今日中に引越しをさせるように――」
「は! かしこまりましてございます!」
皇帝直々のお達しに、頭取は喜び勇んでルナを引き渡してくれたのだった。
◇ ◇ ◇
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