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「なんの騒ぎだ。騒々しい」
格別には怒っているわけでもなさそうな感情の見えない声音だが、そのひと言だけでも男たちは心臓が縮み上がるといったふうに全身をガタガタと震わせている。
「も、申し訳ございません! このガキが……悪さをしおってからに仕方なく……」
「悪さだと?」
どんな――? といったように男たちと少年を交互に見やる。
少年の方は未だ治らない荒い吐息に肩を上下させながらも、驚愕といった表情でいる。
「じ、実はコイツが我々のカジノへ潜り込みまして……。チョロチョロしやがるもんで、ご来場のお客様方にもご迷惑をお掛けしちゃいけねえと……追い出そうにも逃げ足が速くてですね。ちょこまかとカジノ中を逃げ回った挙句、散々引っ掻き回しやがりまして」
それで追い掛けて来たというわけらしい。彼ら曰く自分たちに非はないと必死だ。
「……話は分かった。いいからもう下がれ」
「はっ! たいへんなご無礼を……。このガキは連れて参りますんで」
男たちはホッとしたようだ。だが、皇帝なる男から飛び出した言葉に驚かされる羽目となった。
「この子供は置いていけ。こちらで処置する」
「は……? ですが……」
「置いていけと言った」
文句があるのかとばかりに鋭い視線をくれられて、ビクリと身震いさせられる。反論したい思いはあれど、実際にそれを口に出す勇気は誰一人として持ち合わせてはいない。仕方なくといった調子で肩を落としながら、渋々とその場を後にしていった。
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