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冰は冰で、話し掛けられたからには相槌を返さねばと思うわけか、一生懸命な様子で応えてみせた。
「あの……お兄さんもお父さんとお母さんいないんです……か? 僕もです。でも……今は黄のじいちゃんと白龍のお兄さんがやさしくしてくれるので……とてもうれしいです」
「白龍のお兄さん? 皇帝様のことか?」
ルナの問いに答えたのは焔当人だった。
「俺の字だ。周焔白龍、これが俺のフルネームだ」
「へえ、そう」
ルナはそれきり食事に専念し、これといって言葉を発することはなかった。
夕飯が済むと遼二はルナを先に部屋へ返して焔の私室を訪れた。
「で、どんな様子だ。あのルナという男は――」
「ああ、それなんだがな。さっきメシの前にヤツの身体を調べてみたんだが――紫月で間違いないと思われる」
「――! ってことは、やはりヤツは一之宮だというのか?」
「古傷の位置といい、形といい、ホクロまでがそっくりだった。それにヤツを裸にしてみたところ体型や特徴まで全てが一致する。間違いなくヤツは紫月だ」
遼二は成人してすぐの時分から紫月とは深い仲にあった。つまり、身体の隅々まで知り尽くしているのだ。
「……そうか、あの男が一之宮――とな。ではヤツはどこかで誘拐に遭い、記憶を失くしてしまったということになるな」
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