ルナと紫月

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 一方で、紫月――ルナ――についても本人と衣食住を共にしながら、彼の記憶を戻すことができないものかと試行錯誤の日々が続いた。  昼間はルナに茶道をはじめとする立ち居振る舞いや座敷での所作、その他にも政治情勢などの教育を行って過ごした。夕方近くになると冰が学校から帰ってくるので、彼の宿題を見てやるという名目で、ルナと冰を同じテーブルにつけて勉強をさせることにする。  そんな日課を数日続けた頃だ。ルナは当初、大分年下の冰に興味を示すわけでもなかったが、同じテーブルを囲んでいると広げているノートが視界に入るわけか、時折ルナの方から『そこの答えはこうだ』などと自発的に話し掛ける素振りが窺えるようになっていった。  冰はそのたび律儀に礼を述べ、次第にルナを頼るようになる。分からない問題に突き当たった時は冰の方からルナに教えて欲しいと言い、当のルナもまた、面倒くさがるわけでもなく訊かれた問いには答えてやっていた。ひと月が経つ頃には、すっかりルナは家庭教師のようになり、冰が学校から帰ってくると進んで二人でテーブルにノートを広げては勉強するようになっていった。  (イェン)も遼二もそれらを黙って見ていたのだが、どうやらルナという男はなかなかに勉学の方も得意のようだ。
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