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「浮気をしている気分なのか? 一之宮を忘れてルナに惹かれ始めている自分は浮気者だと、そんなことはあっちゃならねえと、てめえはてめえで自分を戒めてる。違うか?」
「……ッ、そうかも知れん。俺は今でも紫月を愛している。なのにあのルナのことも気に掛かって仕方ねえ。このまま紫月が戻らずにあのルナと過ごせば――いずれは二人の人間を同じくらい大切に想ってしまう時が来るだろう。もしかしたら紫月に対する想いよりもルナを大事と想う気持ちが勝っちまう時が来るかも知れねえ……ッ。そう思うと怖いんだ」
「――落ち着け、カネ。おめえは二人の人間と言うが、ルナと一之宮は同じ身体を持つ一人の人間だ。別人とは違う」
「なあ、焔。俺はガキの頃からずっと脳裏に描いてた夢がある。それは――鐘崎組を継いで、親父や組員たちと共に生きていくという夢だ。俺の隣には当然紫月がいて……ヤツの親父さんの道場がすぐ近所にあって、いつでも行き来して――。皆んなの笑顔の中で紫月と共に生きていくっていう夢だ。それが今は……別の人間に心を寄せて……紫月のことも、ずっと思い描いてきた夢のことも……まるで別次元のように感じ始めている。そんな自分が恐ろしくて仕方ねえ……! 確かに身体は一人の人間で、ルナと紫月は同一人物だ。頭では分かっちゃいるし、ルナを抱く自体は簡単かも知れねえ。抱けばまた違う気持ちになれるのかも知れねえ。だが……もしもあいつをこの手に抱いちまったら、もう二度と戻れない。そんな気がするんだ。親父のことも組のことも、紫月のことも忘れて――」
俺は自分自身さえ失くしてしまうような気がするんだ――!
それが怖くて仕方ない。恐ろしくて仕方ない。掌で顔を覆い、涙を見せまいとするも焔には友が号泣しているのが痛いほど分かっていた。
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