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「おい、あんま急いで転ぶなよ」
「う、うん! ルナお兄さんに教えてもらったとこ、白龍のお兄さんにも見せてあげたいの!」
冰はルナを振り返りながら、『ルナお兄さんも早くー!』といった調子で駆けてくる。
「ふん、しゃーねえヤツだな」
催促されるままに早足になったルナの笑顔にドキリと胸が高鳴り、まるで鷲掴みにされるように苦しくなる。
ただ苦しいのではない。甘く痛むような苦しさだ。
隣に座っていた焔が立ち上がり、仔犬のように駆け寄って来た冰を両の手で受け止めた。それにつられるようにして遼二もまた椅子から立ち上がる。
焔が冰を受け止めたように、もしもこの手でルナを抱き締めたならどんな気持ちになるのだろう。そんな想像にぼうっとしていた時だった。
「あれ……? 遼センセ、今日はなんか元気ねえのな?」
ハタと我に返れば、ルナが白魚のような手を差し出しながら頬に残った涙の痕を見つけて首を傾げていた。
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