遼二とルナ

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「……もしかして泣いてた? 目ェ真っ赤だけど……」  心配そうに覗き込んでくる。遼二は慌ててしまった。 「おい、皇帝様! アンタ、まさか俺ン遼センセを泣かしたんじゃあるめえな?」  怪訝そうに焔に視線をくれてルナが凄んでみせる。 「バ、馬鹿ぬかせ! 何だって俺がこいつを泣かさにゃならんのだ。……ッと、虫だ! そう、虫! 割合でっけえ虫がこいつの目に直撃してな……。そんでもって……」  タジタジながらも咄嗟にそう繕った(イェン)に、ルナの方は『本当だろうな?』と片眉を上げる。 「いくら皇帝様だって遼に手ェ出したら、この俺が黙っちゃいねえぜ」  半ば冗談のように不適な笑みを見せたルナのその仕草、少し斜に構えてニヤッと笑うその表情、それはいつだったか遠い昔に見た紫月の高校時代を彷彿とさせるようなものだった。まるで黒い学ランを纏った彼がすぐそこにいるような感覚に襲われる。  今まで目の前を覆っていた深く濃い霧がみるみると晴れてゆき、辺りの景色が鮮明になっていくような幻影が浮かぶ。遼二は大きく瞳を見開いたまま、しばし呆然としたようにルナから視線を外せずにいた。
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