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「うわぁ……大きなお部屋……」
自室に着いて少年を降ろしてやると、彼はようやく震えも治まったのか、大きな瞳を目一杯見開きながらキョロキョロと辺りを見回しては感嘆の溜め息を漏らしていた。その仕草が何とも自然で妙に可愛らしい。
焔はこの街に来てからこのかた、配下の者たちから畏敬の念やおべっかの中で生きてきた。そういった大人の思惑などこの少年には皆無だ。そんな素直さが清々しい印象となって、焔は一層のこと興味を引かれるのだった。
「おや、坊っちゃま。お帰りなさいまし。……その少年は?」
高年の男が不思議顔で首を傾げながら出迎える。
「おう、真田か。ちょうど良かった。この坊主に何か食わしてやってくれ。えらく腹を空かせているようなのでな」
真田というのはこの邸の家令である。焔が生まれる前から彼の実母の家の執事として仕えてきた男だが、妾の子という立場の焔の行く末を心配して、以来専属の家令となった忠義に厚い頼れる存在であった。
「はあ、かしこまりました。して、坊っちゃまの方はお夕飯は如何なされますか? 湯の支度も整えてございますが」
「そうだな――。俺も坊主と共に食うとするか。その後で湯に入れてやろう」
どうやら連れて来た少年と一緒に夕飯をとり、風呂まで共にするつもりのようだ。真田と呼ばれた高年の男は瞳をパチクリとさせながら戸惑っていたが、焔はそんな様子にもえらく上機嫌であった。
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