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 私は見た。窓の外に観音堂らしき建物があるのを。陰りゆく陽差しが静かな冬の夕闇を際立たせていた。  私はタイムスリムをしてはいなかったのだ。悪夢でも見ていたのだと思った。しかし、この場所が教室ではないことは確かだった。  私の右手首に激痛が走った。右手首には麻のロープが締め付けられていた。ロープの端は太い木の柱に結び着けられていた。見上げると、屋根裏の野地板が今にも剥がれ落ちそうに垂れ下がり空風に揺れていた。担任の教師は立ち上がり、まとっていた僧衣を脱ぎ捨て、黄色と緑色に染まった肌の上半身を露出し、床に落ちている(かび)で黒ずんだ山号額(さんごうがく)を立て掛け、手にしていた(なた)のようなもので叩き割った。  山号額の断片が私の顔近くに飛んで来た。目を寄せて凝視すると、そこには黒ずんだ文字で朴念寺と記されていた。  教師は振り返り、私を見つめ、にたっと笑った。教師の右手首の肌は紅色に染まって出血していた。  教師は私に近寄ってきた。私はどうすることも出来ず、ただ藻掻(もが)くしかなかった。教師は出血している右手首を私の口元に添えた。鮮血が私の唇に垂れてきた。                          
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