プロローグ

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プロローグ

 寝る前にメールを開くと、優がネットで開いているショップでプリザーブドフラワーを購入した客からのクレームだった。 それを確認した優は(マズいな)と思わずカレンダーを見た。  いや、見なくても分かってはいる。  明日は恋人の、丸山幸とのデートの約束の日。 (でも……) と、優は指を折り考えた。サイトで購入して客に商品が届くまでの日数……それにプラス交換のために送ったり送り返したりの日数……を考えると今すぐにでも対応したい。誕生日や記念日のお祝いの品なら渡す日が決まっているだろう。そしてその日が差し迫っていたら? それなら交換商品を宅急便で送るより、直接客のところに行くのが一番良い。  さらに、もう飾っていて不具合が起きたなら、その原因を探りたい。どこにどう置いていたのか、室温や湿度窓から入る日の当たり方はどうなのか……後々のために知りたい、というか実際に確かめたい。  優は花屋だ。そして花屋は職人だ。職人としてのスイッチが入ってしまうと、どうしても疑問や問題を解消しないことには気持ちが落ち着かない。  平日なのにわざわざ仕事を休んで自分の休みに合わせてくれた恋人の顔を思い浮かべるとズキンと胸が痛む。  きっと楽しみにしてくれていた……自分だって一日彼女を独り占めできる明日を心の餌にして、この一週間の仕事を乗り切ってきた。  しかし、このままではデートしても、このことで気もそぞろになって、彼女をガッカリさせてしまうかもしれない。  デートするのか、ドタキャンして仕事をとるのか。 (どうしよう……)  優は時計を見た。  明日と言ってもあと数分で、その明日が来てしまう。 (ごめん、幸さん……)  優は恋人に心の中で謝りながら、その客の住所への行き方を調べはじめた。
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