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ドタキャンされたデート
突然キャンセルになった涌井とのデートの約束の朝、
「今からうちに遊びにこない?」
と幸からユミカに電話したのは、誰かにこのがっかりした気持ちを聞いてもらいたかったからだ。
電話するには早すぎる時間にもかかわらず、ユミカは二つ返事で飛んできてくれた。
長らく疎遠にしていた親友をこんな時だけ頼るなんて、と気が咎めたけれど幸はユミカの他に涌井のことを話せる相手がいない。
会うのは四月の夜桜見物以来だ。サクラを抱っこしてやってきたユミカは涌井と幸の関係について興味津々だった。
しっかり者の幸が朝から電話してきたのだ。よほどの何かが起こったの? というのと、専業主婦で変化の少ない日常を過ごすユミカには友の恋バナはまたとない娯楽というのもある。
まだ時刻は午前九時を過ぎたばかり。
クッションをお尻に、サクラを抱っこしながら幸の話を一通り聞いたユミカは、「はあぁぁ」と特大のため息をついた。
「朝っぱらから電話してきたから、まさか妊娠しちゃったの? 別に問題ないのに! って、飛んできたのになぁ」
「に、妊娠なんて……私たちまだそんなこと」
丸いローテーブルを挟んで座る幸が、クッションを抱きしめる。
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