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「それにしても、いくら仕事だからって前から決まっていたデートをすっぽかすなんてね!」
と、握り拳を作る。
すると抱っこされていたサクラが母親の不機嫌な声に反応して「ヒック」と唇を震わせた。泣き出しそうな雰囲気にユミカは慌てて膝を揺らして我が子をあやす。顔を上げてその様子を見た幸は、眩しいものでも見る様に目をすがめて「仕方ないよ」と苦笑した。
「だって、涌井さんにとっては十年思い続けて成就した片思いの相手でしょ、幸は」
「私は片想いされていたなんて全然知らなかったけどね」
「そこがロマンチックで素敵なんじゃない! なのに、デートをドタキャンするなんて」
と、まだユミカはブツクサと文句を言っている。
「ありがと、ユミカ」
と、言われてようやく気を取り直した彼女が、
「涌井さんからプロポーズは?」
と、幸に聞く。
聞かれた幸は陶磁器のような白い頬をうっすらピンクに染めて頷いた。ユミカそんな幸をウチの子の次に可愛いなぁと思う。
「プロポーズっぽいことは言われてる。会うといつも」
「そんな時幸はどう答えるの?」
「別に」
「別になんてことないでしょ」
「だって、結婚する前から子供が欲しいって言われてもどう答えていいか」
「ずるっ、色気ないなぁ。それって夜のお誘い?」
「そういうんじゃないと思うけど」
と、首を傾げた親友にユミカはうーん……と唸った。
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