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「お客さん?」
「セールスの人。しつこくって」
その言葉に驚いた涌井が、
「えっ!」
と、声を上げると、玄関に出てきた女性がぐい、と少女と涌井の間に体割り込ませてきた。ちょうど出かけるところだったみたいで肩に鞄を提げている。
「うちは何も買いませんから帰ってください!」
「え、いや……俺は」
「いいから帰って!」
バタンと目の前でドアが閉まる。
クレームの対応で来たので怒られる心算はしていたが、セールスに間違えられるとは思っていなかった。
ドアの向こうからこちらを気にしている気配を感じる。一旦離れた方がいいだろう、と涌井はアパートの階段を降りた。
「……まいったな」
電柱についている町名の表示とメモを見比べてため息をつく。あそこがクレームをくれた客の家だと思って行ったのに。昨日の夜、書き写す時にに間違えたのだろうか。
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