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これじゃ、涌井との関係を前に進められないこともわかっている。
実は会うたび、(もしかして今日はとうとう……)と期待と不安で気持ちがぐちゃぐちゃになっていた。しなければホッとする反面、今日もしなかったとモヤモヤして。
(空が高いなー……)
また、ため息が出る。
確か、秋が一番空高く見える季節と何かで聞いたことがある。
目一杯手を伸ばしても果てがない、どこまでも青い空。
(今どこにいるの?)
電話をすればいいだけなのにできないでいる。
だって、涌井がその客と会っているところだったら? 涌井の仕事の邪魔はしたくない。歩いているところなら着信に気づかないかもしれないし、トイレ中なら出れなくて当然だし……と考えて狼狽する。トイレ? 何考えてるんだろ、私。
とりあえずトークアプリで来たことだけ送信する。
もう一度ため息が出た。
あとはもう涌井からの連絡を待つだけだ。
(これからどうしよう)
手持ち無沙汰になった幸は、あたりをキョロキョロした。その時、ブワッと風が吹いた。風は幸が被っていた帽子をさらう。宙に舞い上がる帽子に手を伸ばしたけれど届かない。それどころか歩道の敷石のほんの少しの出っ張りにつっかかって転んでしまった。
「痛っ」
顔だけあげて帽子が飛んでいった方を見るけれど、もうどこへいったかわからない。
「嘘、気に入ってたのに!」
幸は声に出して嘆いた。
なんて幸先が悪いんだろう! まるで自分と涌井の未来を暗示しているみたいだ。
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