高3の夏

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 うちのクラスに入ってきた石田くんに歓声が上がる。 「賢人ー!」 「なになにー」 「賢人くんこっち見て」 「はーい」  すごいモテぶり、すごいチャラさだ。  これが彼へ苦手意識を持った最大の原因。  昔の素朴で実直だった“賢ちゃん”の面影はない。  ……それでも目で追ってしまうのは。  私はずっと、彼に片想いしているから。  接触はなくても母から彼の情報は耳に入る。  彼は幼い弟達を可愛がっているようだし、家の為にバイトをしている模様。  チャラくなっても優しいところは変わっていないんだ。  そういうところが、今も報われない恋を続けさせる理由。 「真名、今年も花火大会行こ」 「おっいいねえ!」  親友の(はるか)とも中学校からの付き合いで、毎年近所の花火大会に行く仲。  結局お互い彼氏ができず、花火大会に行けることを内心ホッとしている。 「今年はアキとミチルも誘おうよ」 「そうだね」 「男の名前出ないの哀しい……」 「いいじゃん、浴衣着て美味しいもの食べまくろう」  チラリと石田くんを見上げる。  彼も花火大会行くのかな?  最近噂になってる学年一の美女、高野(たかの)さんと行くんだろうか。  考えただけで胸が締めつけられて、鈍い痛みを覚えた。  ……昔は二人で行ったのに。  甚平を着た賢ちゃん、格好良かった。  手を繋いで歩いて、スーパーボールすくいしたりリンゴ飴食べたり。  露店で売っていたおもちゃの指輪を、買ってくれたりもしたっけ。  あの指輪、今でも宝箱に大切にしまってある。  思い出したら顔が熱くなって、そんな自分を虚しく思った。  きっと石田くんは、覚えてない。もしくは忘れたい黒歴史だろう。  もう、私達はそれぞれの世界があって、交わることがないんだ。  そう言いきかせて折り合いをつけて、この気持ちに蓋をするしかなかった。 ____「じゃあねー」 「帰ったらメッセ送る」  遥と別れて一人歩く帰り道。  家の近くになると、少しだけ緊張してしまう。  ……もしかしたら、石田くんに遭遇しないかなって。  会いたいような、会いたくないような、複雑な気持ちで石田くんの家の前を通るんだ。 ____「……相沢」 「うお!」  突然声をかけられ変な声が出る。  突如として冷や汗が噴き出た。  背後から聞こえた声は。 「……相沢」  …………石田くんだ。  恐る恐る振り向くと、彼は珍しく一人で佇み、じっと私を見つめている。 「お、お疲れ」  話すのは久しぶりすぎて、意味不明な声かけをしてしまう。 「お疲れ」  それでもノリの良い石田くんは、同じように返してくれた。  だけどいつもの悩殺笑顔は見せてはくれなくて、神妙な顔でこちらを見る。 「ど、どうしたの?」  もしかして、何かのクレーム?  我が家の雑談の声、煩すぎた?  それとも、未だに幼なじみだって言われてることがウザったくて困ってるとか? 「あのさ」  話せるのは嬉しいけど、次の言葉に怯んで目を瞑った。  拒絶されたくない。  されたくないから、自分から距離をとったのに。 「……花火大会、行く?」      
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