高3の夏

4/5
前へ
/82ページ
次へ
「花火大会……」  それってどういう意味?  まさか一緒に行こうとか?  ……そんなわけないよね。  たった数秒のうちに一喜一憂を一通り終わらせて、動揺を隠すように微笑む。 「うん。……遥と、アキとミチルと行く!」  石田くんは少し黙った後、「そう」とだけ言った。 「………………」 「………………」  かなり気まずい空気。  久しぶりの会話だから、どうやって話していいかも忘れてしまった。 「い、石田くんも行くの? もしかして高野さんと? いいなぁ陽キャは」  今のは良くなかったな。  勝手に劣等感を覚えていじけているのがダダ漏れだ。 「……うん。そう」  そうハッキリ返事をもらい、胸に棘がささったみたいに息をするのも苦しかった。  涙が出そうになる顔を必死に抑えて笑顔を作って、震えないように慎重に声を出した。 「そっか。楽しんで! じゃ、おばちゃんに宜しく!」  そう言って逃げるように自分の家へ駆け込む。  玄関に入った途端しゃがみ込んで、動悸と共にひっきりなしに湧いてくる色んな感情に息切れを起こして。 「ああ……」  石田くんと話せた。  だけど、胸が痛い。  ……決定的に失恋してしまった。  後悔が募って、じわりと涙がにじむ。  あんなこと言わなきゃ良かった。  石田くんが誰と花火大会に行くかなんて、知らずにいれば傷つかずに済んだのに。 「うう……」  ……もしも。  もしもさっき、私が「一緒に行こう」と誘ったら。  彼はどんな顔をしたんだろう。  またあの頃のように、微笑んでくれただろうか。 「賢ちゃん……」  高3の夏、花火大会を目前にして。  十年も続いた私の恋は、ついに終わりを迎えてしまった。  
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2070人が本棚に入れています
本棚に追加