高3の夏

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____「真名、元気ない?」  花火大会当日。  たくさんの賑わう人達に混ざって、女子四人、それぞれ違う色の浴衣を着て露店の通りを歩く。  この日の為に着付けを練習して、長い髪もシニヨンにして。  お互い「可愛い」なんて褒め合って、カラフルな色のチョコバナナを食べて。  いつもと変わらない、楽しい時間のはずだった。  ……だけど 「ちょっと食べ過ぎたみたい」 「もう、真名食い意地張りすぎ」  作り笑いがバレないか心配になる。  どうしても、石田くんのことが頭から離れなくて。  去年は、彼に偶然会えないかなって期待してた。  一目でいいから浴衣を見てもらいたかったし、同じ夜空を見上げる瞬間があるだけで、嬉しかったから。  でも今年は、会わないようにって願ってる。  彼が他の女の子と一緒にいるところを見るのは、どうしても辛かった。 「あれ、相沢?」  聞き覚えのある声にハッとする。  心臓が止まるかと思った。 「やっぱり。お前らも来てたんだ」  同じクラスの男子達だ。  石田くんがいないことにホッと胸を撫で下ろす。 「女子四人なんて悲しいなぁ」 「あんた達だって男子だけじゃん!」  男子の一人と遥が喧嘩を始めるのを、皆と同じように笑う。  上手く笑えてるかどうか、そればっかりが気になった。 「……なあ、相沢」  男子の一人、山内くんに肩を叩かれギョッとする。 「ちょっと話があるんだけど」  遥達はニヤニヤして顔を見合わせた。 「うちら、かき氷買ってくるから」 「山内と真名はちょっと待ってて」 「え、待ってよ」  追いかけようとする私の腕を山内くんが掴んだ。  びっくりして振り向いているうちに、遥達の姿が遠のいていく。 「……あのさ、相沢」  神妙な顔つきの山内くんにドキッとする。  ……まさか、これって…… 「……美術の課題手伝ってくんない?」 「はあ!?」  思ってもみなかった話に拍子抜けして、呆気にとられた。 「お前、絵得意だろ? 夏休みの課題さ、にっちもさっちも行かなくて」  ……何故そんな話を今……  紛らわしい言動に呆れつつも、ホッとして「いいよ」と言いかけたその時。 「山内くん?」  一際可愛らしい声が響いて、私達は同時に振り向いた。 「あ……」  私の百倍くらい愛らしく白色の浴衣を着こなした、編み込みヘアの高野さん。  そして彼女の背後には。 「おう、石田も来てたんだ」  山内くんの声が遠く感じて、魂が抜けたように身体が動かない。  ティーシャツに、短パンというラフな姿の彼。  ……会ってしまった。  高野さんと二人でいる石田くんに。 「………………」  彼はじっと私のことを見つめていた。  どこか冷めたような視線に感じるのは、劣等感によるものか。 「……二人で来たの?」  石田くんの質問に、私は答えない。  そして、山内くんが「違うよ」と言う前に、彼の腕を引いた。 「ちょ、相沢!?」 「行こう! 山内くん!」  そのまま山内くんを引っ張って、人混みにまみれていく。  もう、振り返ることもできない。  泣かないことだけを考えた。  できるだけ、二人の姿を思い出さないように。  打ち上げ花火の轟き音がお腹に響き、胸を震わす。  歓声の声もどこか人ごとのように感じて。  見上げた空の鮮やかさにも、とても感動できそうにない。 「綺麗だな」 「……そうだね」  結局私は、高3の、青春最後の花火大会を、偶然会った山内くんと二人で見たのだった。    
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