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石田くんとは、その夜を境にもっと話せなくなって。
そのまま受験シーズンが過ぎ、高校を卒業して。
お互い地方の大学に行くことになったから、そのまま音信不通。
実家に帰省した時も、会うことはなくて。
そうして私の恋は終わってしまったのだった。
「来月、○○区の花火大会だって」
「そうなんだ。彼氏誘ってみよ」
そんな会話がオフィスに響く中、一心不乱にPC画面を見つめる。
まずい、このままじゃ納期に間に合わない。
「お疲れ、相沢」
会議から戻ってきた先輩の鈴木さんが、私のデスクにそっとコーヒーを置いてくれた。
「そう根詰めるなよ。まだ間に合うから。俺も手伝ってやるし」
「ありがとうございます」
広告代理店のデザイナーとして働き出して二年目。まだアシスタント業務ばかりだけど、とても充実している。
「相沢、花火大会行くの?」
「ぐは!」
「どうした」
「なんでもないです」
六年経った今も、花火大会というワードには胸を抉られる。
あの日から一度も参加していないし、テレビですら花火を見ていない。
「誰か行く人いんの?」
コーヒーを啜りニヤける鈴木さんに、苦笑するしかなかった。
「わざと言ってますよね? いるわけないじゃないですか」
彼氏なんていない。
むしろ、今まで一度も。
大学生活も、就職しても、恋愛したことなんて皆無だった。
……石田くんが忘れられないからなんて、誰にも言えない。
片想いを拗らせて、未だに恋愛経験なしなんて。
「行く人いないなら、俺が行ってやるよ」
爽やかに笑う鈴木さん。
三歳年上の先輩で、優しくて頼りになるけど、いかんせんチャラい。
こんなふうに思わせぶりな発言が多いから、どう答えていいかわからないのもしばしば。
「そう言えばさ、もう一件お誘い」
「お誘い?」
「三つ葉不動産の打ち上げパーティー、お前も来いよ」
「私も!?」
三つ葉不動産とは、最近百貨店のリニューアルで取引があった。
ほんの少しだけど、広告制作に私も関われたから、私にとって初めての大きな仕事だった。
「今週の金曜な。よろしく」
「宜しくお願いします!」
嬉しい。私もこのプロジェクトの一員になれたみたいで。
「終わったら二人で二次会な」
「それは遠慮しときます」
鈴木さんの誘いは憂鬱だけど、パーティーが楽しみだ。
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