24の夏

2/12
前へ
/82ページ
次へ
 石田くんとは、その夜を境にもっと話せなくなって。  そのまま受験シーズンが過ぎ、高校を卒業して。  お互い地方の大学に行くことになったから、そのまま音信不通。  実家に帰省した時も、会うことはなくて。  そうして私の恋は終わってしまったのだった。 「来月、○○区の花火大会だって」 「そうなんだ。彼氏誘ってみよ」  そんな会話がオフィスに響く中、一心不乱にPC画面を見つめる。  まずい、このままじゃ納期に間に合わない。 「お疲れ、相沢」  会議から戻ってきた先輩の鈴木さんが、私のデスクにそっとコーヒーを置いてくれた。 「そう根詰めるなよ。まだ間に合うから。俺も手伝ってやるし」 「ありがとうございます」  広告代理店のデザイナーとして働き出して二年目。まだアシスタント業務ばかりだけど、とても充実している。 「相沢、花火大会行くの?」 「ぐは!」 「どうした」 「なんでもないです」  六年経った今も、花火大会というワードには胸を抉られる。  あの日から一度も参加していないし、テレビですら花火を見ていない。 「誰か行く人いんの?」  コーヒーを啜りニヤける鈴木さんに、苦笑するしかなかった。 「わざと言ってますよね? いるわけないじゃないですか」  彼氏なんていない。  むしろ、今まで一度も。  大学生活も、就職しても、恋愛したことなんて皆無だった。  ……石田くんが忘れられないからなんて、誰にも言えない。  片想いを拗らせて、未だに恋愛経験なしなんて。 「行く人いないなら、俺が行ってやるよ」  爽やかに笑う鈴木さん。  三歳年上の先輩で、優しくて頼りになるけど、いかんせんチャラい。  こんなふうに思わせぶりな発言が多いから、どう答えていいかわからないのもしばしば。 「そう言えばさ、もう一件お誘い」 「お誘い?」 「三つ葉不動産の打ち上げパーティー、お前も来いよ」 「私も!?」  三つ葉不動産とは、最近百貨店のリニューアルで取引があった。  ほんの少しだけど、広告制作に私も関われたから、私にとって初めての大きな仕事だった。 「今週の金曜な。よろしく」 「宜しくお願いします!」  嬉しい。私もこのプロジェクトの一員になれたみたいで。 「終わったら二人で二次会な」 「それは遠慮しときます」  鈴木さんの誘いは憂鬱だけど、パーティーが楽しみだ。    
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2076人が本棚に入れています
本棚に追加