骨を埋める

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骨を埋める

 年齢=彼女いない歴だった俺にも彼女ができた。  まさに美女と野獣と言われても仕方のない組み合わせだ。  何もかもが順調で幸せだった。  特に彼女の作る料理は絶品で、つい食べ過ぎてしまう。  どうやら完全に胃袋を掴まれたようだ。  もう彼女なしで生きてはいけないと、俺は思い切ってプロポーズをした。  かなりの勇気を振り絞った俺だったが、彼女は拍子抜けする程にあっさりと快諾してくれた。 「私の故郷の村に骨を(うず)めると約束してくれるなら」  入り婿になってくれということだろうか。俺には兄がいるのでその点は何とかなる筈だ。  彼女は近々帰省するつもりだったらしく、一緒に来ないかと誘ってくれた。  聞けば、彼女の村は地図にも載らない辺鄙な所で、俺一人では到底辿り着けないような場所らしい。  ひたすらに草木を掻き分け道なき道を行くと、ようやく村と思しき姿が見えてきた。  ここまで文明の落差を感じるとは思わなかった。この土地で、俺は彼女と一生を共にするのか。 「大丈夫、みんなあなたを歓迎してくれるわ」  そんな彼女の一言に背を押され、俺は村へと足を踏み入れた。  すると 「贄さまだ! 贄さまが来なさった!」  俺の姿を見た途端、村がわっと歓喜に湧いた。  贄さまって何だ……?  ただならぬ空気を察した俺は、慌てて村から出ようとした。  だが、見えない何かに阻まれてどうしても外へ出ることができない。 『……ォオオオ』  その時、村全体から地響きのような雄叫びが聞こえた。 「村を行き来できるのはお役目を賜った私だけなの。でもよかった、土地神様も喜んで下さっているわ」  そんな彼女の声が聞こえた瞬間、俺の後頭部にガツンと激しい衝撃が走った。  朦朧とした俺の瞳に映るのは、妖艶に俺を見つめて微笑む彼女の姿。 「ありがとう、ここに骨を埋めるって約束してくれて。私も暫くはあなたの奥さんでいてあげるね」  違う  俺はただ君と……  ささやかな希望の言葉を最後に、俺の意識は永遠の闇へと呑まれていった。
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