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「そんな男の子を、異性として見ろという方が無理なのよ……」
包丁で野菜を切りながら、ヴェルディアナはそんなことをぼやいた。何故令嬢であるヴェルディアナが料理をしているかと言えば、答えは簡単である。このバッリスタ家には使用人が二人しかいないためだ。
長年使えている執事と、年配のメイドが一人。料理人もおらず、屋敷を掃除するにも人手が足りないような状態。おかげで、ヴェルディアナには家事雑用スキルが身についてしまった。そんなもの、絶対に貴族の令嬢に必要なスキルではない。
「けど、お父様もお母様もこの婚約を喜んでいらっしゃるしなぁ……」
なんといっても、相手はこのロンバルディ王国でも屈指の名門家系であり、魔法使いの名家でもあるのだ。そんな家に嫁ぐことが出来れば、一生安泰といっても過言ではないだろう。やはり、ここは自分が我慢をするしかない。いくら婚約者が七つも年下だったとしても、我慢するしかない。
そう思うが、ヴェルディアナには無理だった。それは、ヴェルディアナの好みが頼りがいがあってたくましい年上の男性だったためだ。
(頼りがいがあって、たくましくて、筋肉ムキムキの男性が好きなのに……!)
そのため、ヴェルディアナからすれば年下の線の細い男の子は好みではない。確かに、リベラトーレだって筋はいいだろう。きっと、十年もすればたくましく頼りがいのある男性になる。が、十年である。十年もすれば、ヴェルディアナは二十五歳だ。
「……はぁ、どうしよう……。あ」
そんなことをぼやき、ヴェルディアナはふと手元を見た。すると、そこには山のような野菜が千切りになっていた。
その光景を見て、ヴェルディアナは焦る。バッリスタ家の主食は野菜ではあるものの、こんなには食べない。だって、草食動物ではないのだから。
「私のバカ……!」
そんな言葉を零し、ヴェルディアナは慌てて野菜を籠に入れていく。まだ、冷蔵保存をすれば大丈夫だ。そう、信じることにした。バッリスタ家にとって、食材は言葉通り命の源だ。一つたりとも、無駄には出来ない。それくらい、貧乏だった。
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