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怪盗、惚れ薬を所望する。
怪盗は往々にして宝を盗む生き物である。宝といえば宝石、絵画、彫刻などとにかく高価な物を思いつくだろう。
しかし少年怪盗トゥエルブは趣が違った。
世界を破壊しかねない物品──例えば触れただけで死ぬ宝石、ブラックホールを生み出す玉などを宝と称し回収するのだ。たまに処分もしているが、保管している分はどこにあるのか助手すら知らない。
とはいえ値打ちものの宝石や世界最高峰のワインや大金等を盗むこともあるが、トゥエルブ曰く資金調達兼盗む理由の目くらましなのだとか。
そして怪盗は夜の活動がほとんどで、助手も夜型になっていた。助手は太陽がのぼり始めたので眠りにつくと、突然激しいノックとともに部屋のドアが開いた。入ってきた少年はもちろんトゥエルブだ。
「イレブン、いい加減起きろ! 仕事だ!」
「今から寝ようとしてたんですよ!」
「朝の7時だぞ!?」
彼も同じ時間だけ仕事をしているはずだが、一体睡眠スケジュールはどうなっているのだろうか。
「……一体今度の獲物は何ですか? 絵画? 骨董品?」
「ちがう。薬だ」
腰に手をあて自信満々に告げられ、イレブンは眼鏡をかけ直す。眠っていたところを叩き起されたので嫌味な言い方で返した。
「病院でも襲う気ですか? 恥を知って下さい」
「違うって、そういうのじゃない!」
トゥエルブは大慌てで一つの水晶を取り出す。彼の母親の形見にして、世界を破壊しかねない物品を予言するという水晶。トゥエルブにとって一番の宝だった。水晶に映し出されているのは、ふくよかな中年男性と彼が持っている試験管だった。中には黒い粉が入っている。
「今回の狙いは試験管の中身である惚れ薬なんだ」
「ほ、惚れ薬……そんな物がどうして世界を?」
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