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助手、ホテルへ
イレブンがホテルについた頃に神無月は既に目覚めていた。「部屋を出なければ何をしてもよい」と書き置きをしていたせいで神無月はルームサービスを頼んでいた。
「眠っているところを拉致とは、悪趣味な」
これがカットフルーツを片手にしている人間の言葉だろうか。そう思いながら単刀直入に現状を説明した。
イレブンが山本の周辺を追加調査していた時に発覚したのだが、神無月は山本を嫌っていたらしい。彼のなめた態度はじゃれ合いというより本物の嫌悪からくるものだったらしい。彼の鍵垢を発見し特別なプログラムを用いて覗いたため分かったのだ。敵の敵は味方理論で神無月にすがりつくしかなかった。
りんごをかじり終わってから神無月は口を開く。
「あの薬か……あれは作用機序がほとんど判明していないんだよね。山本は欲望の解放なんて言ってるけど俺は洗脳に近いと考えている。自分が思ってもいないように考えてしまうのさ。まるでその時の人格が本物のように見えるだけで」
「薬で価値観を変えるなんて可能なんですか?」
「そんなのいくらでも存在するんだよ。第一惚れ薬も似たようなものだろ。今回の薬はレベルが違うだけで」
神無月はパイナップルをひょいと口に入れた。
「虫がいい話なのは百も承知です。お願いします。トゥエルブを元に戻す方法を何か知りませんか」
「元に戻るかは分からない。でも暴走を止める方法ならあるよ」
当然のように承諾した神無月に驚きつつもイレブンは頭を下げる。
「教えて下さい!」
「縛り付ける。もしくは何も考えられないぐらい酔っ払う」
顔をゆがめるイレブンに真面目そうな顔で神無月は続ける。
「あの薬は分解されやすく作用時間が短いんだ。だから正気に戻るまでどこかに匿ったり気絶させればいいんだよ」
「それができたら……!」
イレブンが立ち上がると、神無月は目を見開き爪楊枝で後ろを指さす。イレブンが振り向くとそこにたっていたのは見知った顔──いや、明らかに頬が紅潮したトゥエルブだった。
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