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プロローグ
『揺らぐ想いはやがて君を攫って行く』
私は高校に通う藤崎有彩。ロングで青混じりの黒髪で背は女子の中では高めで、普段は友達に囲まれた明るい性格の女子高校生。
「付き合ってください」
ちょうど一年前に、私は人生始めて告白というものと真剣に向き合った。告白自体は初めてじゃないけれど、特に相手に感心はなかったため断っていた日々だった。
でも、そんな私の心を変えたのは"松下慶介"という中学時代から一緒の男子生徒だ。私自身も、何故ここまで心が動いてしまったのかわからないけれど、彼をずっと見て、同じ時間を過ごしているうちに好きになってしまった。
そんな彼からの告白に、私は戸惑った。今まで断ることしかして来ないからなのか、どう答えればいいのか、頭の中が真っ白になってしまった。
『いつまでも、一緒だからね』
告白を受け入れてからの毎日は大きく変わることとなった。でも、それは私にとっては楽しい毎日であっという間に時は流れて行くのだった。
「ん?」
「何っ!?」
でも、現実はそれを許してはくれなかった。
「永遠にこの時間が続けばいいのに」という願いは届くことなく、私の毎日に大きな亀裂を作った。
『地震だっ!!!』
大地が唸り、上下に私達の身体を揺さぶる。立てなくなるような激しい揺れに、人間どころか建物も木もすべて地面へと崩れてしまう。
揺さぶられた大地は大きな音と共に割れて、逃げ場を無くすようにすべてを分断した。1秒1秒が長く感じられて、激しい揺れの前に私達は抗うことは許されなかった。
「い……たぁ」
「大丈夫か?」
「うん、なんとか……」
僅かな時間で変わってしまう風景。数秒前に見ていた景色は見る影なく、瓦礫の山へと変わってしまった。
けれど、私達には景色を惜しむ時間も、休んでいる暇も与えられなかった。大地の揺れに招かれるように、巨大な水の壁が私達の街へ迫っているというのだ。他の人達は声を掛け合いながら高台を目指して走って行く。
「まずい、津波だって!逃げるぞ」
「でも、何処へ逃げれば……」
次から次へと変わっていく現状に、私は動揺して思考停止状態となっていた。彼に手を引っ張られながら、必死に彼の背中から離れないように走る。
「なっ!?」
だが、津波の到着は予想より早くて規模も大きかった。侵入してくる水は無情にもすべてを飲み込んで行く。
瓦礫の山を避けながら高台へと向かう私達の後ろを追うように猛スピードで押し寄せてくる。
「くそっ……、有彩、先に行って」
「えっ!?えぇ!?」
急に足を止めた彼は、私の背後に回ると突然肩車をし始めた。急に襲ってきた浮かぶような感覚に
戸惑いながらも、私は目の前にある塀の上へと、彼に押されるようにしながら登るのだった。
「はぁ……よし、そこから屋根を使って向こう側へ飛び移れ!」
塀の先には登れそうな屋根があり、その向こう側には山へと続く道路へ飛び移ることができそうだった。
「慶介は!?」
「今行く!早く道路へいけ!」
私は滑りながらも、なんとか食らいつきながら道路へと飛び移る。振り返れば水はすぐそこまで来ており、慶介も屋根へと登ってきた。
「早く!」
滑る鉄板の屋根に苦戦しながらこちらへと向かってくる慶介。
手を伸ばして「来て!」と叫ぶのだが……、
「……っ!?」
彼が飛び移ろうとした瞬間――。
押し寄せた水によって建物が崩れ始めて、傾いた事によって飛び移ることができずに彼との距離は離れてしまう。
「慶介!」
「いいっ!!早く登れ!!とにかく登れ!!!」
彼の叫びに私は「絶対に来てね」と言いながら上へと続く道路を走った。
少しずつ水位は上がって、止まるとすぐに水は足下に追いついてくるほどだった。彼は大丈夫と自分に言い聞かせながらとにかく落ち着くまでひたすらに走った。
「はぁ……はぁ……」
そう。これが絶望の始まりだったのです。
数日後も彼の姿を見ることはなくて、『行方不明』として扱われたのだった……。
「なんで……なんで……」
私の悲しみは、やがて怒りへと変わって行った。
慶介は殺された。地震に?いや違う。神様がいるとするならば、きっとそいつが仕組んだことだろうと……。私はこんな運命を作った神を恨んだ。
「許さない……なんで、なんでこんな人生を歩まなきゃいけないの?」
もし、これが神様という存在が作った物語で、私はそのレール上を進んでいるのであれば、絶対に許す訳にはいかない――。
「聞いているなら答えてよっ!!!」
景色が変わってしまった街を背後にする。そして大切なものを攫った穏やかにして強大な海を見下ろしながら、私は夕日に向けて叫ぶのだ。
「こんなので楽しいのかっ!?笑っているのかっ!?「慶介の分まで強く生きろ」とでも言うの?…………簡単に言うなよっ!!!」
肺が潰れそうなほどに全身の空気を吐き出して、喉が枯れるほどに大きな声で叫ぶ。顔が地面に向くほどに突き出して、言いたいことすべてを大空へ響かせる。
どれだけ叫んでも、穏やかな海も鮮やかなオレンジ色も変わることはなく、太陽が微笑んでいるように感じられた。
「私はこんな人生認めないっ!!!許さない……ぜっだい゛に゛!!!ごろ゛じ、てやるっ!!!!」
少し後ろへと下がる。
足を踏ん張った先に待っているのは、崖っぷちと広大な海。打ち付ける波が暴れている崖下が待っている。
「私はっ!!!お前になんて従わないっ!!!」
私は神様という存在に抗うために、
目の前に広がる水の大地へ身を投げるのだった――。
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