ハッピーエンドの中身

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「久しぶりね。エイミー。元気そうで良かった」  アンジェラが、余裕の笑みを返す。エイミーが、面白くなさそうな顔をしている。アレックスの方を見ると、明らかにイライラしているのがわかった。 「久しぶり、アンジェラ。私と結婚できなかったからって、まさかこんなに地味で冴えない人と結婚すると思わなかったよ。男爵家の三男で学校の先生なんだってね」  アレックスが、アランを見て残念な表情を浮かべる。 「でも、私、人生で今が一番幸せなの。ふふふ」  そう言って、アンジェラがアランの顔を見て微笑む。アランが、照れたように笑みを返す。  それを見たアレックスは、怒りで拳を握り締めている。エイミーも隣で悔しそうに、唇を噛みしめる。 「ねえ、皆様。男性は、顔ではなくってよ。好いた女性をどこまで愛せるか、それに尽きますわよ」  アンジェラは、広げていた扇子をパチンと閉じる。隣に佇むアランの腕に自分の腕を添える。アランが、アンジェラの顔を見て「行こうか」と声をかけた。  アンジェラは、その場にいた令嬢令息に向き直り声を掛ける。 「では、皆様失礼致しますわ」  二人は、仲良く会場の出口に向かって歩き出す。その場に居合わせた人々は、羨望の眼差しを向けていた。  約一名、目を吊り上げて悔しそうにその背を睨んでいる。隣に佇む自分の夫は、恥をかかされたことに怒り一人で踵を返して会場から出て行ってしまった。    エイミーは、こんなはずではなかったのにと扇子を強く握り締めている。  会場では、止まっていた音楽が流れ出す。見物人たちは、何事も無かったかのように会場内に散って行く。  会場内の喧騒に、エイミーの嫉妬や妬みや憎悪の感情が渦巻いているようだった。  アランに寄り添いながら、アンジェラは思う。毎日がとても幸せだと。夫のアランが、毎日可愛いと言ってくれる。刺繍の腕を褒めてくれたり、ドレスを褒めてくれる。迎えに玄関に出れば、ただいまと言っていつもありがとうと言ってくれる。  アンジェラをいつも肯定してくれた。愛してくれた。  これこそがまさに、アンジェラが求めていた幸せだった。
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