そして僕らは夏を探しに

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 本人は水遊びそのものに興味があるわけではなかったらしい。動画などでしか見ることがなかった、夏らしいもの。そういうものを発見することそのものが楽しくて仕方ないようだ。  振り返って尋ねる少年に、私は少し考える。そして。 「じゃあ、ちょっとだけ歩きましょうか」  彼の手を引いて、公園を出ることにしたのだった。目指す方向は、実はスーパーとは反対側。手間はあるが今は、可愛い我が子を喜ばせたい気持ちの方が強い。 「わあ!」  その場所に行くと、彼は思った以上の反応を示してくれた。ててててて、と駆け寄っていく先にあるのは――小学校の門。来年、彼も入学することになる学校の入口には、小さな花壇があるのだった。  そこには彼が大好きな、向日葵の花が大輪を咲かせている。 「夏だ!夏だあ!」 「そうだね、夏があるね。向日葵、ゆうくん大好きなんでしょ?」 「大好き!まま、写真とってー!」 「はいはい」  向日葵の横で、ピースする息子をスマホで撮影する。たった三輪しかない向日葵でこんなにはしゃいでくれるとは。実際、去年は感染者数がまた増えてきたということで、夏に外に出かけることそのものを控えていた記憶がある。この向日葵は去年もあったかもしれないが、本人も見るのは初めてだったのだろう。  そう思うと、心から申し訳なくなる。  子供達を病気から守るのは大切なことだ。私達がやってきた感染症対策そのものはけして間違ってはいない。  しかし、そもそも病気が蔓延してしまったのは大人達が最初の対応を失敗したり、病気の存在を無闇と隠そうとしたことが原因だったと私は考えている。自分達大人のせいで、子供達には一体どれほど不便をかけさせてしまったことだろう?窮屈な思いをさせてしまったことだろう?  この子は、感染症のこともわかってくれていて、私が許可しないと無闇と出かけたがることもしない。だからこそ、本当は言いたいこともやりたいことも、たくさん我慢させてきてしまったのではないかと思うとやるせない。 「そうだ、ゆうくん」  まだ、あの病が世界から根絶されたわけではない。本当は蔓延している可能性もあるし、混雑が怖い気持ちもある。  だけど。 「来週の土曜日、ちょっと遠くの公園に行こうか。パパも一緒に」 「うん?」 「ママね。ゆうくんに、もっともっと、夏を知ってもらいたいな」  来週の土曜日、小さな夏祭りが開催される公園を私は知っている。来週なら、夫も休みが取れるということも。  去年まで見つからなかった夏を、今年は家族みんなで探しに行こう。  可愛い我が子の、向日葵のような笑顔が咲くことを祈って。
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