そして僕らは夏を探しに

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 ***  最近本人が向日葵の絵ばかり描いていたのはYouTubeの影響だったらしい。私がスマホで、彼に動画を見せることも少なくなかったためだ。もちろん、子供の教育に良くない動画は駄目なので、彼に見せるのは植物や昆虫の動画とか、海の生き物の動画とかそういうものばかりであったが。  夏を探しにいく。  彼が何を言っているのかいまいちよく分からないまま、私は頷いた。買い物に行くならどうせ彼を連れ出さなければいけないし、日が陰ってきたこの時間ならば散歩に出してもそこまで熱中症の心配はないだろう。  水筒を持ち、きちんと日焼け止めをし。私がマスクをつけると、息子もアンパンマンがついた自分のマスクを身に着けた。出かける時はあれをつける、というのをすっかり学んだらしい。ものすごく暑い日の屋外などでは外させることもあるが、今日は昨日と比べて大分涼しいし、時間帯も時間帯なので問題はないだろう。 「ゆうくん、夏を探しにいくって、どこに行きたいの?」  私が尋ねると、彼は“わかんない!”と元気よく答えた。 「夏があるところ!どこかわかんないけど、行くの!」 「夏があるところ……」  なんだろう。時々、まるで詩人のような物言いをする息子である。マンションを出て、彼がまず最初に行きたがったのが公園である。マンションのすぐ近くの公園は、幼稚園のバスを待つバス停へ行くために横を通りがかる場所だった。  今住んでいるマンションに引っ越してきたのは、まだゆうくんが生まれる前のことである。子供を作ることを見越して、小学校と幼稚園、それから遊べる場所が近いところにしようと夫と相談したのだ。  残念ながらそのあと例の感染症が大流行してしまい、公園は長らく使用禁止になってしまったのだが。せっかくの公園なのに、まだ息子がここで遊んだ数は多くない。  今は規制が緩くなったこともあって使用禁止そのものはなくなったが、今度はご近所トラブルがあったようで“ボール遊びや鬼ごっこ”が駄目ということにされてしまっている。なんでも、子供が騒ぐ声が五月蝿い、とご近所からお役所にクレームがあったらしいのだ。  そういうクレームを言う人は、自分が幼い時に公園でボール遊びや鬼ごっこをしなかったのだろうか、と思う。最近は保育園も地域住民の理解が得られずに作れないケースが増えたというし、なんとも世知辛い世の中である。 「ゆうくん、待って。どこにいくの?」
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