そして僕らは夏を探しに

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 私がそんな感傷に浸っている間にも、ゆうくんはてってこと先に進んでしまう。滑り台に上りたいのだろうか。それとも、最近前回りができるようになった鉄棒で遊びたいのだろうか。今の時期、滑り台も鉄棒は熱くなっていて危ないかもしれない。注意しなければ、と思いながら追いかけたものの、本人の興味は別のところにあるようだった。  彼は、噴水広場で足を止めた。そこでは、ゆうくんよりも小さな子供達が数名、大人と一緒に水遊びをしている。 「まま、夏だよ!」  ゆうくんは嬉しそうに声をあげた。 「夏!夏があるよ!」 「夏?噴水は、夏なの?」 「うん!」  彼は噴水を指さし、一生懸命私にアピールをする。 「あのね、ゆーちゅーぶでやってたのね。公園で、こういうお水が出るところ。お水が出るの、夏だけなんだって。夏になると、こういうところからお水が出て、みんな遊べるようになるんだって。でもね、ぼくね、まだこの公園で、お水出てるところ見たことなかったし……みんながあそんでるところも見たことなかったからね。どうなのかなあ、ってずっとそう思ってたのね」 「!」  私ははっとした。  彼が物心ついた時にはもう、この世界には例の感染症が蔓延していた。そのための対策をするのが当たり前。マスクをつけて、なるべく家にいて、人と会わないようにするのが当たり前となっていた世界。  そんな世界的な規制が、悪いことだとは思わない。恐ろしい病気にかからないようにするため、人と人が極力接触しないように対策するのはある程度仕方のないことではあっただろう。マスクにも効果があったのは事実だ。少なくともみんながマスクをして歩くようになってから、インフルエンザの感染者数が大幅に減ったというのはデータとして示されているのだから。  ただ。  この子は、感染症が流行る前の世界をほとんど知らない。  公園で、自由に子供達が水遊びができるようになったのはつい最近のこと。去年も、その前の年も。公園そのものが使用禁止になったり、使用が解禁になってからも公園の噴水広場で水が出ていることはなかった。彼がこの光景を見るのは、ひょっとしたら人生でも初めてのことなのではなかろうか。 「お水、出てないとね。夏じゃないのかなあって。でも、今日は、夏があったよ!」  彼にとって、夏らしさとは、YouTubeの動画で見る向こう側の景色だったのかもしれない。  だからとても新鮮で、嬉しいことなのかもしれなかった。私たち大人が見るより、想像できるよりもずっと。 「まま、他にも夏、あるかなあ?」
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