第1話 生き残った少女のトラウマ

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第1話 生き残った少女のトラウマ

 俺は、サヴァイヴォーという従姉のところに向かった。  なぜかと言うと、小さい頃からの腐れ縁で、話しやすかったからだ。  ただ、それだけで深い意味はなかった。  彼女は、本部の自室に引きこもっていると思う。  いつも通りのことだ。  俺は、扉をノックした。 「誰なのですか?」  声を聞いただけで、サヴァイヴォーだということがわかる。 「俺だ。 カンバーツだ」 「また、来たのですか?」  呆れたような声がする。  だけど、俺はここで引いたりなんてしない。 「サヴァイヴォーとまた、話がしたいんだ」 「それは、昨日も言いませんでしたか?」  どうだったか振り返ってみても、あんまり憶えていなかった。  昨日もこうして、サヴァイヴォーのところに訪れてきた気がするけれど、自分がどんな発言をしたかまでは曖昧だな。 「昨日は昨日。 今日は今日だ」  過ぎたことの出来事なんて、俺にはどうでもいいことだ。  今日をどうするかが大事だ。 「いいでしょう。 中に入って、話でもしたいんでしょう? カンバーツ様は、難しいこと考えていないんですから」  ここで、部屋の中から鍵を開ける音がした。    俺は迷うことなく、中へ入った。  美しい緑色の髪を背中まで長く、  エメラルドのような綺麗な緑色の瞳が、俺を見つめていた。  透き通るような白い肌に、ピンクの唇。  パジャマ姿だというのに、なぜかだらしなさを感じなかった。  いつ見ても、サヴァイヴォーは美人だなと見とれてしまいそうだ。 「今日は、どんなご用でしょうか?」  俺の答えは、即答だった。 「用なんてない! ただ、君に会いたかっただけだ」 「そうだろうと思いましたわ」  サヴァイヴォーは冷めたような表情をしている。   「俺の前だけ、クールに振る舞っているのか?」 「昔からの付き合いですからね。 あたくしは、いつでも真面目ちゃんなだけですわ。 カンバーツ様こそ、そんなやんちゃ少年のような活発さは抜けないのですか?」 「俺の取り柄は、明るさだ!」 「ポジティブすぎますわ。 あたくしは、毒舌のつもりだったのですが・・・」 「そうだったんだ。 俺は、そういうところも可愛いと思うけどな」  サヴァイヴォーが一瞬、照れたような気がするけれど、  すぐに真顔になった。 「とにかく、飲み物をお入れしますわ。 席について、下さいませなのです。 何を飲みたいでしょうか?」 「フレンチトースト!」 「今、飲み物の話をしていたのですが・・・」 「そうだっけ? じゃあ、バナナタピオカで」 「それは、うちには置いていないのですが・・・」 「そうだっけ? 何なら、置いてあったりする?」 「紅茶とか、ハーブティー、 麦茶がありますわ」  お茶関係は、普段はあんまり飲まないんだよなあ。  俺は考えたすえに、無難なものを選ぶことにした。 「麦茶で」 「今、入れてきますわね」  俺は待っている間は、彼女の部屋を見渡すことにした。    部屋は綺麗で、女の子らしさを感じる。  何の香りかはわからないけれど、とてもいい匂いがする。  俺はちゃぶ台の前で、座ってみた。   「持ってきましたわ」  サヴァイヴォーの持っているおぼんの上には、  麦茶と紅茶があった。    麦茶は俺ので、紅茶はサヴァイヴォーの分だと思われる。 「早いな」 「入れてくるだけですから」 「さすがは、真面目だけが取り柄な学級委員長!」 「今は、関係ないですから。 それに、これは学生の頃の話じゃないですか?」 「そうだっけ?」 「同い年なんですから、そこら辺は記憶してもらわないと」 「悪い、悪い。 俺、過去のことは気にしないタイプだから」 「そうですか」  サヴァイヴォーは、麦茶と紅茶をちゃぶ台に置いた。  気が利くことに、俺の座っている近くに、麦茶が置いてある。 「細かいところまで、気がつくんだな」 「何がですか?」 「俺の近くに、麦茶が置いてあるということだ」 「当たり前のことをしたまでです」  サヴァイヴォーは、俺と向かい合わせになるように座った。 「今日は、どんな話がしたいんですか?」 「俺は小さい頃から、この世界にいるけれど、 昔の君はもっと明るかった気がするんだ。 いつも笑顔だったのに、ある日を境に笑うことすらなくなった。 だから、あの時みたいにもう一度、笑ってほしい」  俺が初めて異世界に来た時は、病弱だったために、  いろいろな人に助けられていた。  特に、サヴァイヴォーには。  あの時の彼女は、今見たく真顔で話すような真面目ちゃんではなく、明るくよく笑うような社交的な女の子だった。 「それは、無理なことなんですわ」 「え?」 「目の前で、あんな理由もわからない惨劇を見せれて、 当時の幼いあたくしには、トラウマでしかありませんわよ。 あたくしは、家族を失ったんですの」  サヴァイヴォーは12歳で、両親を失って以来、  叔母であるメーにお世話になっている。  性格も、その時から変わってきたような記憶がある。  俺も、こっちに来てからは、メー叔母さんにお世話になっている。  実は、メー叔母さんは四人兄妹の末っ子で、  甥である俺と、  姪であるサヴァイヴォーを育ててくれた。  俺とサヴァイヴォーの関係は、従姉弟(いとこ)という関係だ。  小さい頃から一緒に住んでいるから、親戚というよりは、家族という感じだった。  新しい家族を迎えてからも、サヴァイヴォーの心の傷は消えていないんだと思う。  その面は、俺が支えてやらないとな。
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