1-1 檻の中

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 ある事情があって王都名物の花娘の一人なのに、満足に着飾ることも出来ないスイレンのことを心配してくれて、とても優しい人なのだ。スイレンは慌てて籠の中の花を数えてから、仕上げに少しでも長持ちするように状態維持の生活魔法をかけて手渡した。 「おはようございます。女将さん。いつも、ありがとう」  スイレンは首を傾げて、精一杯の笑顔を浮かべた。厳しい状況下に置かれた彼女にとっては、この女将さんのように大事に優しくしてくれる人は貴重で、だからこそ何の心配も要らないと笑った顔を見せていたかった。 「スイレンの売る花は長持ちするからね。店の中は、もう花だらけだよ。今日も頑張りな」  赤と白の小さな花束を持った女将さんに手を振って別れると、花の入った大きな籠を持ち、スイレンは籠の底にある小袋で種類別にしている花の種を覗き込んだ。 (今はまだ……花を追加することもないとは、思うけど。今日は何故か街には人出が多いみたいだし。少しでも、たくさん売れると良いな)
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