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1-1 檻の中
その晴れた日は、年に一度行われる大祭の時のような騒ぎだった。
先の戦争で、この国ガヴェアへ大損害を与えた戦犯。隣国ヴェリエフェンディの英雄である、有名な竜騎士の一人が捕らえられたのだ。
彼は騎乗していた竜が傷を負い墜落し、その竜の命乞いをして、抵抗する事なく捕らえられたのだと言う。
ガヴェア自慢の芸術的とも言える壮麗な王都にある、大きな広場。
そこ中央に、異様な存在感を放つ魔物用の檻が置かれている。民衆が取り巻く大きな鉄格子の檻の中、まるで見世物の動物のように佇んでいるその男こそ、竜騎士リカルド・デュマース。
燃えるような赤い髪に、茶色の瞳。そして、その大柄な体躯と隆々とした筋肉を持つ美男子であった。とはいえ、敵国であった人間からすれば、脅威でしかなく化け物のように恐れられていた男だ。
罵声を浴びせられ、石を投げつけられたとしても。彼の目の光は衰えることなく、輝きを放っていた。
竜に選ばれし竜騎士のみに着ることを許されている黒い騎士服は、檻の中に入っている時から、既に小汚くなってしまっていた。敵国の英雄を直接目にして怒り狂った民衆に泥も投げつけられ、今ではもう見るも無惨な姿になってしまっていた。
それでも。
貧しい花売りの娘は、一目見て彼に恋をしてしまったのだった。
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