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十三.
「なんだかもう、怖くなってきたわ」
城崎が苦笑いを浮かべた。
「どうする?
開ける?
でも実は僕は、自分が何を入れたか覚えてるんだ。
あのスケッチブックの中から、いちばん上手く描けた一枚を入れたんだよ。
城崎は?」
「あたしも覚えてるけど……とんでもなくベタな、幼稚園児いわくの将来の夢とか書いた手紙だよ。
さっきの文集なんかよりももっと、なんていうか原始的な、わざわざ開けなくてもわかるぐらいの」
缶を優しく撫でながら、城崎は懐かしげに、ふっと表情を緩ませた。
その顔に、
「……じゃあ、またにしよっか。
城崎が覚えてるなら、それで充分じゃないかな」
僕はそう提案し、再び缶を元の穴の中へ戻した。
「えっ?」
一瞬驚きながらも、
「あ……そう?
ま、そうね……。
じゃあ、ずっと、待ってるよ」
意外と素直に応じた城崎が、缶の上へと土をかけ始めた。
『ずっと、待ってるよ』か。
あんまり待たせないように、頑張るよ。
城崎の言葉は、『このタイムカプセルをまたいつか開ける日を待ってる』という意味にも取れるが、僕は、城崎が書いた手紙の内容も覚えている。
ここへ来る前、実家でこのスケッチブックを一人めくり眺めながら、タイムカプセルに入れるものを二人で一緒に用意していたその時のことを、思い出したのだ。
もしも運命が多少なりとも自分の手で作り出せるのなら、僕はその手紙の内容に沿うべく、僕の『あのねこ』のイラストで一仕事為しておかねばならない。
でないと、彼女の将来の夢の通りに、彼女を運命的に迎えに行くことができないのだ。
「大学在学中になんとかできたら、いいかなぁ」
敢えて知らないふりなんかして、軽い感じでつぶやいてみる。
「うん、すごくいいと思う。
あたしも頑張るね」
缶を埋め終えた土をトントンと叩くと、僕らは立ち上がり、夕日に長く伸びた二人の影が並んで駐車場の地面に映った。
その影の先に集められた落ち葉が、なんとなくハート型になっている気がするのは、また運命的な偶然だろうか、それとも、向こうの茂みに隠れているマリノの仕業だろうか。
終
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