十.

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十.

何はともあれ、幼稚園時代の友人との再会を祝し、僕と城崎は後日改めて思い出の古根(こね)、思い出の幼稚園で会うことにした。 が、辿り着いてみるとそこには当時の面影などどこにも無く、おしゃれな感じのカフェが(たたず)んでいるのみであった。 「実は、二年前に閉園になったんだよね」 遅れて現れた城崎が残念そうに笑った。 そして二人並んでコーヒーカップを手にテラス席に着くと、城崎はおもむろに彼女の小学校の卒業アルバムを取り出した。 「あぁ、城崎は西古根小(にしこねしょう)だったんだ」 「まぁね」 言いながら、開くのかと思ったアルバムの表紙に、城崎は両手を置いた。 「?」 首を(かし)げていると、 「あのさ……kinoってネーム、由来は何だと思う?」 城崎が少し照れたような顔で僕を(うかが)う。 「え? 城崎(きのさき)の『キノ』だろ?」 「ふ、ふ、それも半分、かな。 でも、本当はね」 アルバムを開いた城崎は、素早くページをめくっていくと、やがて写真から文集へと内容が移り、その中の一ページで手を止めた。 そこには『夢』と(めい)打たれた彼女の作文があり、『あのねこ』の絵と共に、 『私は将来、この絵を描いた人の名前から取ってkinoという名前で女優になります』 なんてことが書いてあった。 『この絵を描いた人』、つまり僕の名前は、滝宮優樹(タキノミヤユウキ)。 驚いている僕に、 「あのさ、運命って、自分で作り出せると思う?」 城崎がまた悪戯(いたずら)っぽく微笑んだ。 と、その時、アルバムの隣に置かれていた城崎のスマホが光り、画面には、 『fromハロ』 『みんないつもの店で待ってるぜ』 というメッセージが表示された。
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