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二.
「なぁ、教えに行こうぜ。
なんか美人っぽいし」
既に糸を引き上げ竿に巻き付け、彼女の所へ移動する気満々のマリノがささやく。
「この距離で美人とかよく分かるな。
やめとけよ。
一人で来てるんだから一人でやりたいんじゃないのか」
あまり気が乗らない僕だったが、
「ねぇ、一人?
それじゃ釣れないからさぁ、こっちで一緒にやらない?」
などと平気な顔をして恐れも無くマリノは女性の方へと近付いて行った。
だがやはり即拒否された様子で、マリノは全速力で戻って来た。
「だからやめとけって言ったのに……」
気まずい空気で釣り続けるのが嫌なので、僕はポイントを変えようと毛鉤を引き上げ川原へ上がる。
そこへ辿り着いたマリノが、僕の肩をがっしりと掴み、絶え絶えに荒らげている呼吸を整える事も忘れ、かすれうわずった声を絞り出した。
「キ……kinoだ……!」
「えぇ?」
何を言ってるのか、突然過ぎてよく分からない。
「ど、どうしよう、どうする?
嘘だろ、こんなことあるか?」
「いや、どうするって……ほんとにkinoって人なのか?」
「間違いない、毎日動画観てんだ、間違えるはずがない」
興奮極まれるマリノが何度も大きく頷く。
「えぇ……でももう話しかけちゃったんだし、あっちもプライベートなんだろうから、気付いてないふりして普通に教えてあげるのがベストなんじゃないの」
「そ、そんなことできるのか?」
マリノが、絶対無理、と全面に書かれた顔を僕に向けた、その時、
「あの」
マリノの背後から女性の声が届いた。
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