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三.
「あぁ、はい!
なんでしょう、kinoさん!」
マリノが振り返る。
「あぁもう……」
なんでそこで名前とか呼ぶのかなぁ、と僕が大きなため息をつくと、
「あぁ、いや、お構いなく。
別に隠すつもりも無いんで」
そのkinoなる女性が、僕の顔をじっと見詰めてきた。
長い黒髪を後ろで束ね、目深に被った黒いキャップの下には、小さな顔と大きな目。
「教えてくれるんですよね?
よろしくお願いします」
あまり動じない性格なのだろうか、kinoは見ず知らずの男子二人に普通のトーンで絡んでくる。
「あぁ、はい!
じゃあちょっとこっちへ!」
「浮かれてコケて溺れるなよ」
僕とは対象的に大熱狂で教え始めるマリノに捨て台詞を送りつつ、僕は少し離れた上流へと移った。
段差となった岩で淵が作られ勢い良く水が流れ込む『落ち込み』と呼ばれるポイントに毛鉤を投じながら、横目に二人の様子を窺っていると、kinoは覚えが良いのかすぐにコツを掴み、ものの十分ですっかり様になっていた。
「さすが女優、ってことなのかなぁ。
それにしても、こんな所で推しの女優と、ちょうどその人の話をしてた時に出会うなんて、すごいな。
運命的な出会い、かねぇ」
などとひとりごちていると、kinoの竿に大きな当たりが来たらしく、そして同時に、僕の竿にもぐっと強い手応えを覚えた。
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